トヨタ自動車が2018年3月期の連結最終利益予想を上方修正し、過去最高更新することが分かった。これは日本国内の販売増というより、米国の法人税減税と円安の影響が大きく寄与し、手放しで喜べる状況ではない。現に6日、東京都内で記者会見した小林耕士副社長は、「通期見通しの評価は『バツ』だ」とし、売上高も過去最高を見込む通期予想に表情が晴れない。
その理由は本業のもうけを表す営業利益は、為替などの影響を除いてみると、前期に比べ550億円の減益となる見通しとなっている。本来得意とする北米においては、競争環境の悪化で減益となり、17年度の中国での販売台数は日産自動車やホンダに及ばなかった。経営陣は本業を強化に加え、電気自動車(EV)などの次世代環境車への開発という難しいかじ取り状況にある。
トヨタはいち早く水素自動車を開発したが、「未来」と命名されたこのクルマにトヨタは未来を託すのか、業界では危ぶまれている。「トヨタに未来はあるのか? EV車への完全シフトに出遅れたウラ事情」と題する業界紙は、トヨタがこれまでEV車に中途半端な参入しかしなかった理由について、「水素自動車を捨てなければならなくなるから」との見方を示した人がいる。
その人とは、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡氏。先ずは米国・カリフォルニア州が、トヨタが世界をリードしているハイブリッド車を、「地球に優しい車」と認めなくなってしまった。それに続いて、ヨーロッパ諸国が2030年~40年にかけて(ハイブリッドを含めた)「内燃機関車」を市場から排除しようという動きに出たこと。
この一連の動きによってトヨタは、しばらくは得意とするハイブリッドで繋ぎ、10年から20年かけて水素社会に向けたインフラを作った上で、水素自動車を地球温暖化の切り札として世界に普及させるトヨタの目論見が座礁したことは、誰の目にも明らか。にも関わらず戦略変更してEV車にコミット出来ないトヨタは、「イノベーションのジレンマ」に陥っているのだと…。
誰もが電気自動車を作るようになった世界で、トヨタがどこで勝負する会社になるのかという、「絵」が描けないからだとし、今の世界では、「勝ち組」だからこそ急激にその世界を壊すことは自らの首を締めることになる。このジレンマを打ち破るには、「別会社を作って本気で電気自動車を作らせる」などの少し乱暴なことをしなければ間に合わないと中島氏はいう。
クルマ社会は勢いを増すばかりで、ホンダも遂に最終利益1兆円企業の仲間入りを果たすことになる。最終益の1兆円突破は、国内事業会社ではトヨタ自動車、ソフトバンクグループ 続き3社目である。クルマの原価率というのは算出不能といわれるくらいに複雑らしいが、それに加えて極秘情報とされているので、自動車メーカーから原価や原価率が公表されることはない。
クルマの製造原価を考える前に、複雑なクルマの製造工程は以下の6つの工程によって出来ている。①プレス工程、②車体組み立て工程、③塗装工程、④エンジン製造工程、⑤組み立て工程、⑥検査工程。それらからクルマの製造原価は決まることになるが、専門家がいうには、クルマの製造原価を一言でまとめるなら、「重さ」と「台数」と「手間」ということになるらしい。
一つづつ説明すれば、まずは「重さ」だが、一般的には車重1tの車よりも、車重1.5tの車のほうが販売価格は高い。それもあってか、「クルマは1kgで1000円」といわれたこともあったが、当たらずとも遠からずで、高級車となると4,000円/kgを超えるものも珍しくない。最近は樹脂部品も増えたが、クルマは鋼板を加工・組み立てる以上、「車は重いほうが高い」は遠からず。
次に台数とは生産台数のこと。そのモデルが生産終了までにどのくらい台数が作られるかが、クルマの値段決定の重要なポイントとなる。例えば新車開発に500億円、生産設備に200億円の新規投資が必要なら、投資合計金額は700億円となる。このモデルを1ヵ月に5000台、4年の生産期間中に24万台製造するとすれば、1台あたりの開発費と生産設備の負担は、約29万円となる。
そのクルマがヒットして生産台数が増えれば1台当たりの負担は減り、不人気車となってまったく売れなければ1台当たりの負担は増える計算となる。最後に、手間とはクルマの製造に要する手間のこと。大衆車の製造工程の大部分はロボット化されているが、それでも人間の手による部分もある、特に少量生産の高級車は熟練した行員の手作業での組み立てになることが多い。
したがって、「手間」を、「ラインスピード」と言い換えることができ、1台の車にどれほどの時間(=労力)を掛けるかと言うことになる。上記したオートメーション工程を前提にした大衆車ならラインオフするまでの時間は短く、高級車になればなるほど人手と時間を要することになる。細部まで丁寧な仕上げを行うためにラインオフするまでの時間は当然ながら長くなる。
ユーザーはアクセサリーが豊富なほど豪華と思うようだが、装備品の装着にはたいした手間も時間も掛からない上、上級グレード車とベーシックグレード車の差は、ライン上ではほとんどない。自動車メーカーが製造しているのは車本体だけで、エアコン、エアバッグ、シート、タイヤ、ホイールなどの各種装備品は専門メーカーから購入し、工場で車体に取付けている。
そうれら一切合切を取り付けて完成したものが工場原価で、それにマージン(儲け)を加えたものが工場出荷価格になる。最終的なメーカーの希望小売価格は、工場出荷価格に輸送費などの経費やディーラーの儲けが上乗せされて決まっている。そこで原価率となるわけだが、種によっても当然異なるものの、一般的には車両本体価格のうち80%くらいと言われている。
あくまでこれはひとつの目安としての数字であり、一例として、150万円の大衆車の場合は、大雑把には以下のような内訳と記されている。一見して設けはそれほど多くはないように見えるが、あくまで150万円のベーシック車ということでもあり、1000万を超える高級車もある。自動車メーカーはそれ以外にも定期的なメンテナンスなどもあり、ゆえにか1兆円産業となる。
・現材料費+人件費・・・・・・・・・90万円
・開発費・生産設備投資の分担+諸経費・・30万円
・メーカーの利益・・・・・・・・・・・・15万円
・ディーラーの利益・・・・・・・・・・15万円
その昔、トヨタ自動車が利益が多すぎると新聞で叩かれたことがあった。非難の論調は金額の膨大さに向けられたもので、トヨタが不正な手段で利益を上げたわけではない。「みなが困っているこの不況に…」そういう理由で槍玉に上がっただけ。不況であってもクルマは手放せない、他の物は節約しても、クルマは便利であるから売れるのであって、トヨタに罪はなかろう。
連日のようにトヨタは、PHV(プラグイン・ハイブリッド)車の大々的なWeb広告を打っている。電気自動車よりもPHV車の方が、多くの充電方法を用意しているなどとし、潜在ユーザーの掘り起こしを狙っている。充電が切れてもガソリンを使って走れる「PHV車は賢い選択」というキャッチコピーで、電気自動車単体よりPHV車に付加価値を見出さんと懸命である。