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45年を経た再会。その是非 ②

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老年期にある人間には誰にもノスタルジーはある。自らが体験しなくても、45年の歳月を経て再会と聞けば、無関係のものでも多少の感動は生じるだろう。様々な話の中で、「わたし離婚したよ。27歳で…」。離婚などに驚く理由はないが、驚いたのは次の言葉。「それからずっと娘と二人暮らししてきた」。「そうなんだ、娘さんはいくつ?」、「39」、「お嫁に行かないんだ…」

この時彼女は、「そうなのよ、行かないんだって」と、嬉しそうにはしゃいでいた。自分が期待したのは、「そうなのよね~、いい人見つけて幸せになって欲しいんだけど…」であったが、その思いは瞬時に覆された。ばかりか、嫁に行かない娘であることが凄く幸せであるような感じに違和感を持った。引き合いがないのか、意思がないのか、理由は種々あり即断は禁物である。

下手なことも言わぬがよかろう。自分の家族状況を聞いてくるので、さりげなく答えておく。そういった会話の中で、彼女が心に溜めていたと思われる言葉がでた。「でもさ、何でわたしの前から急に消えたの?」。これは女が男に向けた最大の責め言葉であろう。一瞬、たじろぐ自分。彼女はそういう思いを引きずっていたのかと、男としての罪悪感が湧きあがる。

5分ばかし話したところで、「ごめん!わたし今仕事中なの。日本生命やってるよ。今、車でお客さんの家に行く途中だから、夜の八時にかけてくれる?」。いったんそこで電話を終えた。その時点で最も意外な事実だった。離婚のこと、39歳の娘と同居を超えた彼女の生保レディという仕事に自分は驚いた。45年前の清楚で控えめな彼女が保険の営業など信じがたい。


あらためて、「人は変わる、環境や境遇とともに、また時代とともに…」という言葉が頭を過る。彼女の罪ではないが、自分がもっとも嫌いな職種が生保レディであったことも重なった。自分に限らず生保レディのしつこさを嫌う男は結構多い。ネットで「生保レディ」を検索すればわかる。なぜ生保はレディが主役なのか?男のしつこさより、女性の方が社会の許容量があるからだろう。

女性を主にした勧誘は以前からあったが、自分の知識でいうと、住友生命が極度に若くて美人を雇い、会社や事務所に集中攻撃をかけていた。若くて美人に同僚が鼻の下を長くしてええカッコするのが、たまらなく滑稽だったが、自分は美人に言い寄られてうつつを抜かす男は嘲笑の的だった。「俺が美人をちやほやするとでもおもっているのか?」と、不愛想を強める。

美人にちやほやされる男の気持ちが分からぬではないが、承服できないのは美人に対して男は腑抜けになるということを自覚し、利用する女に我慢ができない。「美人を糧にそそのかしたいだろうが俺には効き目はない」と、自分の男として矜持である。昔のアイドル歌手はそれなりに歌もこなせた。デビュー前に厳しく鍛えられたのだろう。聖子はともかく、明菜もキョンキョンも。

ところが近年の歌すら歌えないアイドルは噴飯物である。団体で誤魔化すとかも同列であり、そういう中身がなくて表層で取り入れようという魂胆が気にくわない。人はともかく自分はだまされない。と、これは自分が人間としての矜持である。本物志向というのか、これが昭和20年代を生きた我々の矜持である。つまり、我々の時代の特質は本物が出現したことにある。

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「団塊の世代のハートを揺さぶるCMは、本物志向のインパクトを与えること」。これが電通、博報堂などの大手広告代理店のコンセプトである。ディランを初めとし、プレスリーからビートルズ、日本では拓郎、陽水、赤い鳥、オフコース、チューリップなど、誤魔化しのない本物のアーチストに触れてきた我々世代の眼力は、本物とまがい物をくっきりと色分けできる。

そういう自負と現実こそが我々世代の矜持である。美人は何かにつけてちやほやされるが、それ自体は美人のせいではない。男の可愛さであろう。だから、自分はそんなマヌケな男にはならんと戒めた。陽の当らないブサイク女にこそ、「知・情・意」を宛てる採掘主義者に憧れを抱く。気が付けば少数派、反権威で天邪鬼、これこそが自分という人間の矜持である。

何が面白くて付和雷同であらねばならない。100人が右の道を行けば、臆することなく自分は左を選ぶ。そこには強靭な自己責任が伴うのは承知である。したがって、「みんなが右を選ぶから自分も選んだのに…」そんな言葉は我が辞書にはない。こういう人生の楽しみかたってあるし、ともすれば「男は偏屈であるべき」という偏見を持っている。

多勢に属さぬことで、個性と勇気と力と責任感が備わり、備わってきたとの意識がある。群れなければ何もできない若造には、孤立を怖れぬ強い精神力を養えと言っておきたい。そうはいっても自己分析に鑑みていえば、人間というのは複合的に成り立っており、「雄々しい」外見の人の内に、なんとも、「女々しく」も優しい女性的な部分が潜んでいるものである。

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善悪というより、それが人間の多面性であり、複合的な在り方であって、人が一筋縄でいかないのはそういう点でもある。妙子さんが生保レディであることに何の罪もないが、基本的に彼女らのしつこさの源泉というのは、他人の都合などまったく考えないという職業脳である。もっとも、営業という職種はそういうものだと思っている。相手の都合や気持ちなどを考えたら仕事はできない。

よって、優秀なる営業社員とは、自分のノルマや成績や収入の事でイッパイであるが、いかに相手の身になっているかを演じ、演出することだろう。「慌てる乞食は貰いが少ない」というように、慌てず、せかさずなど短絡的にならず、見込み客の地道な管理こそ、優秀営業マンではないか。人を騙すような営業は最低だろう。同級生の生保レディを出入り禁止にした。


これほどあからさまな嘘をつき、嘘をついたとも思わず、他人を責めるようなバカは、図々しさとか厚顔無恥を超えた、イカレポンチとしか思えないが、理性的な男にもそういうのがいるにはいるが、女性の感情主体傾向に理解のある自分でさえ、許せない嘘がある。嘘をつくだけなら許せるが、嘘をつきながらもその嘘をベースにして相手を責める。これは人倫に悖る行為。

夜の8時を待っていたかのように、電話を入れた。話は当然ながら45年前から始まる。「でもさ、何でわたしの前から急に消えたの?」という会話の続きということもあり、自分がその話題を振った。「急に消えたといったけど、自分が君のアパートに出入りしてて、友達は気を利かして外出してくれていたのを、その子の友達に責められたろ?確かに配慮はなかった」。

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というと、彼女は、「なにそれ?そんなの嘘でしょ」という。ルームメイトに遠慮なしの彼女自身の振る舞いから、第三者が乗り込んできて、苦言を言われたことくらい、忘れぬはずはなかろうと思うのだが、まったく記憶が飛んでいる。その友達のことを「キツイ物の言い方をする」とは言っていたが、自分の出入りを咎められたことは、まったく覚えていなかった。

二人の行く末にとって大事なことだからと、自分は明快に覚えていることで、現にそれ以降自分は出入りを止めている。それを彼女はただ、「あなたはわたしの前から急に消えた」と、結果だけを頭に入れているのが腑に落ちなかった。結果には要因があるが、その要因を飛ばして結果だけが頭にあるのが女というものなのか?不思議な感覚に襲われたが、彼女は絶対にないと言い張る。

自分は日記をつけていたわけではないがと、ここは確かな記録として聞かせたく、「当時の日記に書いてあるから聞いて」と、ブログの文を読み上げた。すると、彼女はやや嫌悪感的ないいかたで、「日記って自分のものでしょう?人に聞かせるものじゃないと思うけど…」。この言葉を耳にし、自分は彼女が頑固で思い込みの激しい人間であるのを瞬時に理解した。

二人は事実を確かめ合ったハズ。それを、「日記なんてのは…」という言い方は本質からずれた、自己正当化の覆りを拒否した言い方である。女にとっては事実などはどうでもよく、大事なのは自分の思いである。それが思い込みであったとしても、それを拒否するという脳細胞の構造ではないのだろう。と、同時にそれは彼女の自分を恨む気持ちであろうと、善意に察した。

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彼女に哀しい思いをさせたのは事実のようで、それが分かればそのことだけは受け入れようとした。なぜなら、彼女の気持ちに立てば自分の主張の一切は言い訳、弁解でしかなく、それは無意味なものに思えたからだ。「あなたの当時の気持ちを理解できました。哀しい思いをさせて済まなかった」。45年前の結果が覆らぬ無意味な謝罪と思いつつも、それが適切と感じた。

そもそも、謝罪とは何のためになされるものか?謝罪をして事が覆ることは往々にしてない。だから謝罪は無意味とは言わぬが、謝罪に変わるものを摸索するなら、それは誠意である。誠意をどう形にして表すかは、状況や人によって異なるが、企業などの不祥事に対する、ありきたりの、型通りの謝罪が何のためになされているかを想えば、行為にすら苛立ちを覚える。

「社員は悪くありませんから」と、自主廃業となった山一証券の当時の野澤社長が、目を真っ赤に腫らして泣いた姿に誠実さを感じた。「ああいう席で泣いてどうする!」という批判の声もあるが、それをいうなら、「ああいう席で泣けるか?」である。泣きたい嗚咽を我慢して泣かない、そういう人間が批判するならいいが、涙の一つも出ない形式社長に批判の資格はない。

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