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秋の気配

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歴史書を読むと色々考えさせられる。読んで知識を得るだけではつまらないし、いろいろ考えることが歴史の面白さであろう。例えば聖徳太子は、現在の紙幣がでるまで長く、「紙幣の顔」であった。それを知っている世代人にとって太子は、カリスマ的な存在であり人気もあった。その太子は、「この世はむなしく仏だけが真実でである」といったのは何故だろうか?

これは太子が妃の橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)に言い残した言葉で、太子の没後、橘大郎女は夫はきっと仏の世界に行ったと考えた。しかし、仏の世界がどんなものか想像もつかない。そこで推古天皇に、仏の世界を絵にして見せて欲しいと頼み込んだ。そうして、推古天皇が女官に織らせて完成した織物が、「天寿国緞帳(てんじゅこくしゅうちょう)」である。

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「天寿国」とは、阿弥陀如来の住する西方極楽浄土を指すものと考証される。太子の思想的遺産ともいわれる仏教信仰であるが、太子は最後まで在家信者に徹し、僧にはならなかった。日本の仏教の特徴に、「在家信仰の重視」があげられるのは、太子から始まったといえよう。仏教ではこの世は仮の世界であり、「この世での自分一代の生涯がすべてではない」と教える。

西郷隆盛や大久保利通はどうか。司馬遼太郎の小説、『翔ぶが如く』よりも、海音寺潮五郎の、『西郷と大久保』や、NHK大河などの作り変えられたストーリーを、西郷と大久保の友情物語よろしくそのままに信じるのは歴史的史実と言わず、フィクションである。永井路子も歴史小説家であり、『北条政子』や、『一豊の妻』、『流星 お市の方』などの作品がある。

永井は小学館入社後、『女学生の友』や、『マドモアゼル』等の編集に携わりながら歴史小説を書き始めたが、編集者としても有能だった。1964年、源頼朝の伊豆挙兵から鎌倉幕府創世期前後を描いた、『炎環』で直木賞を受賞、これはNHK大河、『草燃える』の原作となった。その後、吉川英治賞受賞した後、『山霧 毛利元就の妻』が、大河ドラマ『毛利元就』の原作となる。

「頼朝は一尺の領地も所有していなかったことが幸いして東国の棟梁になれた」と、永井は分析する。土地を持たないがゆえに誰にたいしても利害関係がなく、三浦氏や北条氏に対する親しみはあれど、自分の領地や手勢がなうことで東国武士は安心したのだと。そんな頼朝を永井は、「無色透明の人」として東国武士たちに接していたというユニークな表現をする。

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歩きながら考える時間は、歩く以上に楽しい。電車などに乗ってじっと考えるのも同様。近年は多くの人がスマホを覗き込んだりいじったりが多いが、沈思黙考の時間は不要なのだろうか…。「我思う故に我あり」が、「我スマホ故に我あり」という時代になっている。9月初旬のある日、早朝から太陽がのぞき、気温も上がって空はやけに蒼く、高く、秋晴れであった。

そういえば、「日本晴れ」という言葉は、いつの季節を指すのだろうか。辞書では、「雲一つない晴れた日」とあるから、季節限定はなく一年中使えそうだが、どこか秋空の印象がある。気象台はその理由について、「ほとんど雲のない晴れの状態は秋がなりやすい」という見解である。1964年(昭和39年)に開催された東京オリンピックの開会式は10月10日だった。

夏季オリンピックとしては時節的に遅い開幕だが、これは東京の夏は気温と湿度が高く、10月上旬までは秋雨前線が停滞するなどを考慮して決められた日程であり、10月10日は過去の統計をみても晴れの多い日であった。運動会や遠足の前日にてるてる坊主を作ったのが懐かしい。オリンピック開会式当日も、前日の雨模様の天気が一転、朝から絶好の天気に恵まれた。

気象庁の統計によれば、東京で、「体育の日」に1mm以上の雨が降った回数は、昭和41年(1966年)から平成11年(1999年)までの34年間でわずか5回というから驚きである。何度か秋の台風に見舞われたこともあるが、本年も秋の台風がすぐそこまで迫ってきている。季節の変わり目というのは分かりにくいこともあるが、今年の場合、暦が9月になった途端、秋の風が吹いたようだ。

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変わり目が分かり易い感じだった。オフコースに、『秋の気配』という曲がある。鈴木と小田のオフコース時代の曲で、自分はこの曲が一番好きかも知れん。抒情的なガットギターのイントロに続き、あれはあなたの好きな場所と歌われるが、歌詞全体を眺めて思ったのは、これがどうして、『秋の気配』という題名になるのかが不思議でならず、何度も何度も歌詞を追った。

♪あれがあなたの好きな場所 港が見下ろせるこだかい公園
  あなたの声が小さくなる ぼくは黙って外を見てる 
  目を閉じて 息を止めて さかのぼる ほんのひととき
  こんなことは今までなかった ぼくがあなたから離れてゆく
  ぼくがあなたから離れてゆく

小田は秋を非恋と結び付けた、これは男が女から去っていく様子である。この曲について小田はなが~い注釈をつけている。「女にふられたみたいな経験がなかったから書けた。もし、女に捨てられたような経験があったとしたら、あんなに傲慢にはならんでしょう。"嘘でもいいから ほほえむふりをして"みたいな、そんな都合のいい話はないわけでさ。(中略)

こんなに冷たい男なのに、どこがいいんだ?って、いつも思ったもんね。この男の正体を君たちはわかってないなって」。「“ぼくがあなたから離れてゆく”って歌うと、まるでとてもやさしい人で、やむを得ず離れていくような…。“別々の生き方を見つけよう”とかって、よく映画の別れの場面であるじゃない?“いつの間にかすれ違った”、とか。

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でも、本当に好きだったら、別れないもんね。別れるのは、“好き度”が低下したからなんだし、もっといい相手が出てきて“こっちのほうがいいなあ”と思ったからかもしれないんで。そういう傲慢な気持ちを横浜の風景の中に隠したのが、あの曲だったんだ。でも、書いたときは必死だったんだよ、言葉さがして。

本当はそんなつもりなかったんだけど、あとで考えたらひどい男だな、と」「とはいっても、“ぼくのせいいっぱいのやさしさを あなたは受けとめる筈もない”っていうとこは、悪いのは自分だっていうのを認めてもいるわけで。あそこは大事なところで、きっかけにはなったかもしれないな」

長々語っているが、リリースされた時の小田は30歳。彼のニヒルで陰険そうな性格が言葉に現れている。端的にいえばナイーブさ丸出しで、女性に無知は否めない小田和正である。そこまで言わなくても、所詮はフィクションなのだから…。でも言いたいのだろうし、その辺がいかにも子どもっぽい。大人げないではなくて、子どもっぽい。この程度の男は、「悪」じゃない。

その意味で…。音楽三昧で世間音痴で生きて来たとしても、小田はもう70歳だから、今このインタビュー記事を読むとさすがに気恥しいだろう。誰でも青少年時期の発言なり文章なりを経年になって読み返せば羞恥に堪えない。が、過去が笑えるということは、それだけ成長した証しということになる。ならば過去の一切は、笑い話として楽しむしかない。


『4月になれば彼女は』は、サイモン&ガーファンクルの名曲。『4月になれば』のタイトルだが、歌詞は9月で終わっている。曲もいいが、日本人には分かりずらいが、4月から9月までのすべて月名に韻を踏んでいて、韻を踏むために単語が選ばれているところは、詩人サイモン流の味付けである。また、"come she will"、"die she must"などの倒置も韻のためであろう。

 「April」と"will"
 「May」と"stay"
 「June」と"tune"
 「July」と"fly"
 「August」と"must"
 「September」と"remember"



 April, come she will
 When streams are ripe and swelled with rain

 May, she will stay
 Resting in my arms again

 June, she'll change her tune
 In restless walks, she’ll prowl the night

 July, she will fly
 And give no warning of her flight

 August, die she must
 The autumn winds blow chilly and cold

 September, I'll remember
 A love once new has now grown old

この詩はどういう物語を示しているのだろうかと歌詞を追ってみる。四月に彼女と会い、五月には傍にいてくれたが六月に様子が変わり、七月に彼女は予告もなく去って行った。八月、彼女は遠い世界にいったのか。そして九月…、思い出すのはあの時の恋、それは枯葉のようだった。これは女性の心変わりを季節の移り変わりにかけた純愛の歌であり悲恋の歌でもある。

日本には、「女心と秋の空」という慣用句があるが、この詩から「女心」は世界共通のようであり、まさに情緒たる生き物である。「男心と秋の空」というのも否定はできない。ただし、意味は違う。男は愛情の対象、好きな女性に対する恋心が変化しやすいということで浮気をしやすい。女性の場合は、感情の起伏が激しく、場面や時期でコロコロ気分が変わる。

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