国立がん研究センターによると、都道府県別のがん死亡率(人口10万人あたり何人ががんで死亡したか)で最も高かったのは青森県で、2004年から12年連続でのワースト記録を更新中だ。一方、1995年から20年連続で最もがん死亡率が低かったのは長野県である。青森県で長きに渡ってがん死亡者が多い原因のひとつとして、同県の喫煙率が高いことが挙げられている。
厚労省2013年国民生活基礎調査によれば、青森県の喫煙率は男性が40.3%で全国1位、女性が14.3%で全国2位となっている。また、飲酒量の多さも指摘されており、2010年国民健康・栄養調査では、一日1合以上の飲酒を週3日以上続けている飲酒量の多い男性は51.6%で全国1位。このような状況に対し、青森県は2008年、「青森県がん対策推進計画」を策定した。
がんの一次予防対策及びがん検診の推進、がん診療連携拠点病院を中心としたがん診療水準の向上と地域連携の推進などに取り組んできた。さらに2013年には、「第二期青森県がん対策推進計画」を策定し、早期発見・早期治療のための二次予防対策、がん対策の研究・分析などを補てんし、がんの予防から治療まで全県をあげて取り組んでいるという。ところが…
青森県における胃がん検診と大腸がん検診で、患者の4割が見落とされていた可能性があるとNHKが報じた。これについて専門家は、胃がん検診で見落としが40%は多いとの印象としながら、検診の質に問題がある可能性はあるが、後述するようにがん検診の、「見落とし」を数える方法は複数あって、それら詳細な情報がない限り明確なことはなんとも言えないという。
「一般にがん検診では20%程度の見落としは許容範囲と考えられている」と、これも専門家の意見である。というのも、がん検診の種類にもよるので大雑把な言い方に聞こえるが、その辺りを正確に伝えるのは難しいので、こういう表現になるのは仕方がないのだろう。一般的なX線による胃がん検診での、「見落とし割合」は20〜30%は相場として認識されているという。
また、便潜血による大腸がん検診での、「見落とし割合」は7.1%〜70%。これらの数値は国立がんセンターのサイトにあるものだから、これが、「相場」といわれれば我々は納得するしかない。それにしても、大腸がんの便潜血検査の7%~70%という数字のあまりの開きには驚くしかない。100人中7人の見落としならまだしも、100人中70人の見落としも許容されているという。
それでも検診を奨めるのか?とりあえず奨めるが、「見落としがあっても知りませ~ん」というなら、なんのこっちゃである。自分も便潜血でがんが見つかったが、便潜血をやれば100%見つかるものだと思っていたが、この数字には愕然とするし、運が良かったということか?いずれにしろ事情を知れば、「ラッキー!」ともいえるし、「やれやれ」という気持ちになる。
運がいいとか悪いとか、生死にかかわる問題を「運」が左右するなら、何のための検診であろうか。宝くじは当たらずとも許せるが、検診の見落としは許せない。とはいっても、どこに文句をいい、見落としの責任というのをどう取ってもらえるのか?そういう前例は効いたことがないが、責任を取らないならもちょっと検診の精度を究めることはできないのか?
がんの治療は難しいとしても、人体にがんが発生しているかいないのか、それくらいは見つけられると思うが、「見落とし」というのはあまりに不甲斐ない。もっとも、「がん検診」というのは、がんを疑わせる兆候が無い人に行われるもので、いわずともがんを発見するための検査である。胃がん、肺がん、乳がんなどの集団検診、人間ドッグ、職場の健康診断などがある。
普通に考えれば、いかなる臓器もがん検診を受ければ、受けない場合より多くのがんが発見されるだろうし、検診の御利益を否定するものなどいない。ところが、医療専門家はそうは考えない。がん発見後に手術などを行って死亡するケースもあれば、重大な後遺症という不利益もある。したがって専門家はがん検診を受けた人の寿命が延びた場合に利益があったと考える。
がんを告知された後で、PET検査を勧められることは多い。X線検査、CT検査、マンモグラフィ検査に比べてPET検査では従来の検査では見つけられないような、数ミリの大きさの癌細胞を見つけられる可能性があることから、PET検査が登場したころには、PETで救える患者が増えると一大ブームとなり、自分もCT検査の後、さらにPET検査を勧められた。ところが…
実際にはそれほど効果的な検査法ではなかった。確かにPET検査で小さながんが見つけられることは間違いないが、PETを利用すれば必ず小さながんでも見つかるわけではなかったことで、PETブームは現在鎮静化している。国立がん研究センターの内部調査においても、画像検査PETによるがん検診では、85%のがんが見落とされていたことが分かり、効果に疑問符がついた。
PET検査の仕組みは、放射性物質が含まれた薬剤を体内に注射し、がんに集まる放射線を検出してがんを発見する装置で、国立がんセンターでは2004年2月から1年間に、約3,000人が超音波、CT、血液などの検査に加えてPET検査を受けた150人にがんが見つかった。ところが、150人のうち、PETでがんがあると判定された患者は、わずか23人(15%)しかいなかった。
残りの85%は超音波、CT、内視鏡など他の方法でがんが発見されており、PETでは検出できなかった。がんの種類別では、大腸がんが見つかった32人のうち、PETでもがんと判定された人は4人(13%)。胃がんでは22人中1人(4%)だった。また、PETによる発見率が比較的高いとされる肺がんでも、28人中6人(21%)、甲状腺がんで11人中4人(36%)という結果にとどまった。
PETは1994年ごろから使われ始め、現在は100近くの医療機関が導入、多くでがん検診にも使われている。がん検診の場合にはPET検査の保険がきかないため、10~20万円程度の費用がかかる。ところが、がんの告知を受けた場合は健康保険が適応となり、PET検査費用は75,000円、3割負担だと22,500円。プラス診察代など合わせて35,000円程度と考えておけばいい。
自分はPETの知識もなく主治医に言われるままにPET検査を受けたが、これくらいに効果が疑問視されるPETなら、「受けません」と拒否する患者もいるだろう。CT検査が10mm以下のがんは無理ということだったが、近年は造影剤を注射することで、5mm程度のがんも発見可能となる。日本医学放射線学会においても、PET検査の限界示す報告が各医療機関で相次いでいる。
PETが85%のがんを見逃しているというのは驚きだが、PETでは見つからなかったがんが、超音波、CT、血液検査で見つかることも珍しくない。PETは早期がんを見つける夢の機械ではなく、あくまでがんを見つけるための検査方法の一つで、過度な期待はしないこと。また、PETでがんが見つからなかったからと言って、自分はがんではないと判断するのも間違いである。
前々回、アメリカに笑われたPSA検査と書いたが、欧米ではPSA検診の意義を確かめるべく、大規模な比較試験を複数回行っている。比較試験とは、がん治療の効果(利益)の有無を調べるためには、何万人の健常人を二つの群に振り分け、片方には定期検査をし(検診群)、他方は放置して何か異常が生じた場合に検査をする(放置群)。そして両群の総死亡率を比べる。
比較試験は日本では未実施だが、欧米諸国にあっては、肺がん、乳がん、大腸がん等の比較試験があるが、近年行われたのが前立腺検診である。前立腺検診は血中の、「前立腺特異抗原(PSA)」値を測定する。高値の場合、前立腺に針を刺して組織を採取する「生検」を行い、がんか否かを顕微鏡で判断する。がんであった場合、様々な選択種を患者と相談して決める。
前立腺全摘手術、放射線治療、ホルモン療法などが行われるが、いずれも失禁、排尿困難、性機能喪失など、重大な後遺症の発生頻度が高く、QOLが落ちる。生検で異常がなく、PSAが少し高いというだけでも、がんの嫌疑が生じたことに怯えで一生を暮らせば、これまたQOLが低下する。それもあって、欧米ではPSA検診の意義を調査すべく大規模な比較試験を行った。
その結果、検診群の総死亡数は、放置群と同じとなった。比較試験の結果を受けて、米政府の予防医学作業部会は、2011年10月、「すべての年齢の男性にPSA検査は勧めない」という勧告案を公表した。これとは別に、PSA検査が無用であることを示すものとして、PSA検査で発見された前立腺がん患者を二群に分け、片方は前立腺全摘、他方は放置という比較試験を行った。
その結果、総死亡率ばかりか、前立腺がんによる死亡率も両群で変わりはなかった。なぜ、前立腺がんを(発見し次第)治療しても、放置しても、死亡率が変わらないのか?これについて近藤氏は、前立腺がんの大部分は転移のない、「がんもどき」であり、放って置いても命取りにはならない。残りは、すでに転移のある「本物のがん」であり、転移があるので治癒しない。
放っておいても大丈夫ながん、治療しても治らないがん、それらが一緒こたになって前立腺検診で発見される。したがって、その治療は無意味どころか有害となる。近藤氏の考えを理解しないで検診に携わる専門家は、比較試験で差がないという事実や、「もどき」と、「本物」の存在にも気づいてないと、近藤氏の考えは理路整然とし、PSA検診を無意味とする。