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豆腐88円の贅沢 ②

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それにしても豆腐というのは不思議な食材である。「それにつけてもおやつはカール!」というCMで、かっぱえびせんと同様に国民のおやつだったカールが、売り上げを落とし、ついには関西以西のみの販売となった。発売開始50年も経てば消費者の嗜好も変わるだろう。カールはポップコーンに着想を得、日本初のスナック(菓子ではない)との触れ込みだった。

それにつけても豆腐が食卓から消えることはおそらくないだろう。特に冷ややっこの手軽さは、そのヘルシーさも相俟って若い女性にも大人気、入れ歯のばあちゃんにも大人気だ。これぞ日本人の国民食であるその豆腐が、今や大変な目にあっているという。大手スーパーなどの買いたたきによって、納品価格がどんどん下げられ、今では一丁20円で売られているという。

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あまりに哀しい豆腐の命運であるが、大手スーパーの傲慢は看過できないとばかり、ついに今年3月、農水省が重い腰を上げた。豆腐の買い叩き防止のため、スーパーと製造業者間の取引を適正化するためのガイドラインを発表した。農林水産省の担当者は、「日持ちのしない商品で、売り先が地域的にも限られる場合、どうしても買い手側の立場が強くなってしまう。

そこで作り手である食品製造業者に大きな負担がかからぬようガイドラインを策定した」と説明する。行政の指導するガイドラインは、あらゆる省庁に様々存在するが、自主規制ということもあって、守られたためしがない。国交省が賃借人に対して取った敷金返還のガイドラインも、なんやかんやと難癖つけて大家の代行業務の不動産業者が借主に加担することはなかった。

あちこちで訴訟が展開され、有名無実となっているガイドラインにテコ入れするためか、ついに民法改正という大英断を行うこととなった。民法は1896年(明治29)年に作られて以降、120年ぶりの大改正である。その中で「敷金返還の義務化」は弱い立場の消費者に朗報となろう。他人から借り受けた住居を人のものだから、と無配慮な賃借人もいるにはいるだろう。

それはともかく、一般的な良識ある賃借人が普通に生活していたただけなのに、なぜに大家にガッツリふんだくられなければならぬのか?国交省の決めたガイドラインには「自然損耗は居住者の責任ではない」とあるが、相手はプロ、こちらはトーシロ、「原状回復義務」などの宅建知識などをたてに専門用語を並べてくれば、まともにやり合って勝ち目はない。

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賃借人は消費者センターなどに知恵を求めて駆け込む、センターは少額訴訟を勧める。そんなこんなで敷金返還訴訟が全国に展開されることとなった。これはもう、国としても捨て置けないということになった。契約書に何が記載されていたとしても、その内容があまりに貸主に都合のよい独断的な記述であれば、法の精神に照らして無効になるということを消費者は知らない。

だからか、「ゴチャゴチャいうまえに、契約書に〇〇書いてあるでしょう?」といわれれば納得せざるを得ないようだ。最近はないが、昔はひどかった。個人で契約している部屋に彼氏と同居していることも契約違反、新婚夫婦が入居するのはいいが、子どもが生まれると夜泣きなどの近隣に対する騒音被害を理由に退去要請されたり、個人の生活への締め付けがひどかった。

若者なら彼氏(彼女)はできよう、結婚すれば子どもは生まれよう、こうした当たり前の生活環境への配慮や理解がなかったということだ。「そんなこと聞いていない」といえども、「ちゃんと契約書に書いてある。読まないあなたが悪い」と突っぱねることができた。そうした後出しじゃんけんの陰険さを防止するために取られたのが「重要事項説明義務」である。

書いてあるナシではなくてきちんと最初に説明し、納得の上で契約を交わすという法律が出来たのも消費者保護である。契約社会といわれる欧米は、甲と乙は対等だが、日本人の場合は、「〇〇させていただく」と、「〇〇させてやる」という関係になりがちだ。いい例が師匠と弟子という関係で、これはもう封建時代の名残をそのまま踏襲している。

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学校における授業態度をうるさくいうのも日本的で、教師は授業態度が悪い生徒に頭にくる。儒教の名残の国だからというのもあるが、あちらでは教室内で帽子をかぶろうが、足を机の上にあげようが、あご肘をつこうが、要はその生徒がリラックスできる態度であれば、それが学習の効率があがるという考えである。授業態度が良ければ頭に入っているというのではない。

外国に居住しなければ文化は理解できないが、とかく日本人は日本人が正しい、美しいと思いがちである。日本人が明るく住みよい民主社会を作り上げるためには、除き去らなければならない心の持ち方として、「あきらめ根性」、「みてくれ根性」、「ぬけがけ根性」を指摘したのが、『荷車の歌』でなじみの広島県府中市出身で作家の山代巴(1912~2004)であった。

『荷車の歌』は1959年、山本薩夫監督により映画化された。「あきらめ根性」とは、権力を持つ人に抵抗してでも自分たちの工夫や努力を積み重ねて運命を切り開いて行こうとする、「長い物には巻かれろ」拒否する考え。「みてくれ根性」とは、近所隣や世間の噂に動じない、耳を貸さないなど、外面的、形式的な見栄ばかりに執着せず、本当の生活の喜びを作り出す。

周囲を見て暮らす人は結構いるが、自分は自分を生きればいいのに、ありのままの自分を隠し、他人の声が気になるなら、背伸びするしかない。「ぬけがけ根性」とは、他人の不幸をみると自分が幸せになったかのような思い違いをすること。あるいは、ズルい方法で自分だけが利益を得る、自分が良ければそれでいいという考えで、今でいう自己中と同じことだ。

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天皇主権国家から主権在民となった戦後であるが、国は民に奉仕しなければならない。国民の生活が支障なく豊かであるためには法の改正は必要だ。今回の民法改正案は、成人年齢を20歳から18歳へ引き下げ、女性が結婚できる年齢は現行の16歳から18歳とし、男女とも18歳に統一する。法案成立後3年程度の周知期間を置き、早ければ2021年に施行することになる。

が、問題もなくはない。成人年齢が引き下げられた場合、社会経験の乏しい18歳、19歳の若者に消費者被害が広がる懸念が指摘されている。現在は親の同意のない20歳未満の契約は後から取り消すことができることになっている。これら被害の防止策などをしっかりと議論し検討する必要がある。また、家庭の子育てにおいても早期から自己責任を植えつける必要がある。

豆腐から社会問題に話が進展したが、豆腐の買いたたきも社会問題である。1960年には約5万1500件あった豆腐事業所は、2015年には約7500件のまで減少。豆腐・油揚製造業の売上総利益も1999年には約2180億円だったが、2012年には約1500億円と市場が縮小している。製造業者の利益が極度に減少した理由の一つは、原材料である大豆の高騰があげられる。

20年前は、安い豆腐を作るための大豆は一俵2000円だったのが、今は5000円になっているという。豆腐の価格も2倍になってもおかしくないはずが、なぜかそのままにされている。もう一つが大手スーパーによる買いたたき。豆腐、納豆、こんにゃくなどの日持ちのしない商品を『日配食品』というが、これらは恒常的にスーパーから「安くしろ」と言われ続けている。

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そのせいもあって製造会社はバタバタと潰れていっているが、1927年創業の豆腐製造業者、「株式会社いづみや」の青山隆社長は、「スーパーで100円で売られている商品は、かつては82円で納入していたが、現在は60円以下で、我々の手取りは30円以下」と嘆く。いづみやはかつて、1日15万丁を作ることができる工場を持ち、大手スーパーなど約100社と取引をしていた。

が、約10年前にスーパーとの取引をすべて停止し、現在は直売所など、地元客向けに販売を行っているという。おそらくスーパーの値引き要請攻勢に頭にきたのだろう。「『日配食品』ということで足元見やがって、ザケんじゃねー!」と、青山社長の、「あきらめ根性」のなさが、権力にひれ伏さなかったと解する。ある流通コンサルは、「豆腐の適正価格は、一丁200円」という。

知らなかったが、今や一丁20円台もあるというし、言われてイオンを除いてみると50円台も売っていた。豆腐は毎日食べるが自分は今のところ、男前豆腐店謹製の、「特濃ケンちゃん」一点に決めているので、他の商品に触手が動かない。はじめて見つけたときは、面白いパッケージだなという印象で、食べて以降すっかりリピーターになる。それにしても男前豆腐とは?

激減する豆腐製造業者にあって、活気あるメーカーの代表が男前豆腐店だという。社長の伊藤信吾氏は二代目だが、父親が経営していた豆腐メーカー三和豆友食品(現三和豆水庵)在籍時に、「男前豆腐」、「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」といった、今までにない斬新な名称とマーケティング手法で独立起業した。豆腐の古い概念を打ち砕いた伊藤氏のセンスというしかない。

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名前だけで売れるほど消費者もバカではないから、味も良いということになるが、豆腐嫌いの自分を好きにさせてくれた豆腐として印象深い。豆腐製造業者は、現在も家族従事者を主体とする小規模事業者が圧倒的多数を占めているが、個人営業豆腐製造業者が減りつつある中で、豆腐文化そのものの存続も危惧されつつも、中規模以上の元気な豆腐メーカーが存在する。


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