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天才棋士の一手 ②

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ボビー・フィッシャーは14歳でインターナショナルマイスター、15歳で最高位グランドマスターとなったが、将棋の藤井聡太は14歳でプロ四段。それをもって天才度の比較はできないが、藤井の闘う相手は羽生を筆頭とする同じ日本将棋連盟の棋士でしかないが、フィッシャーは、「世界と闘った男」であった。これは世界中のチェス相手という意味ではない。

チェスプレイヤーの世界人口は多いのに、なぜ将棋は世界に普及しないのか?将棋は主に日本だけで行われている。理由はさまざま言われるが、駒の漢字書体が国際的にローカルというのもあろう。ならば、駒に何も書いてないチェスは、なぜ日本で普及しないのか?という疑問もわく。将棋もチェスも発祥はインドのチャトランガというゲームである。

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チャトランガが、各方面にそれぞれ形を変えながら伝わり、西洋ではチェスに、中国では象棋に、日本では将棋となって定着した。以後は、長期間にわたってそれぞれの地域の中で文化として確立した。そこに似たようなものをもってきても、少数の愛好者に珍しがられる程度で、主流にはなりえない。昔からあったものこそが文化の主流であり続ける。

小麦粉を水で練ってつくる「麺」は、中国で始まったが、それが日本ではうどんや素麺となり、西洋ではマカロニ、スパゲッティになった。いかに日本のうどんや焼きそばが美味しいとはいえ、外国に押し入ってでマカロニ、スパゲッティを超えることはないし、香川県がマカロニ県となることはない。文化というものは土着的である。もし、日本がチェスで名をあげるなら…

日本からチェスの世界チャンピオンが誕生することが一つのきっかけになるかも知れない。将棋の羽生善治が、国際チェス連盟(FIDE)のレーティングで、国内2位の2399となっている。1位の小島慎也は2400とわずか一点差なので、実力は同等である。小島は高校時代の2005年に第38回全日本チェス選手権に史上最年少で優勝しチェスの日本チャンピオンとなった。

その後、2008年の第41回まで連続4回全日本チェス選手権で優勝している。羽生はレーティング2300以上のFIDEマスター、小島は2400以上のインターナショナルマスターの称号を得ている。最高位グランドマスターは、FIDEレーティング2500を一度でも獲得し、国際大会において2600相当の成績を3回達成すれば授与される最上位のタイトルとなっている。

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以下の表は2016年3月現在の世界のレーティング一覧で、トップは2851ポイントでマグヌス・カールセン氏。彼はノルウェー生まれのグランドマスターで、歴代最強のチェスプレイヤーとも言われている。5歳でチェスを覚え、13歳でグランドマスターに、そして19歳でFIDEランキング世界1位となる。19歳で世界ランク1位は歴代最速で、彼がいかに天才であるかを現す。

将棋では比類ない活躍を見せる羽生が、世界の順位では2500位前後となり、これをどう見るかは人それぞれではないか。日本人で2500位はスゴイと見るか、世界で2500位なんて屁でもないとみるか…。ちなみにプロゴルファー・ランキングで松山英樹は世界第4位、これはすごい。石川遼は110位前後で、並のプロゴルファー。トム・ワトソンは松山を評価する。

石川については、「彼くらいのレベルなら米国に200人はいる」と述べている。羽生がどれくらいチェスの勉強をしているかを知る由もないが、かつてIBMのコンピュータdeepblueと闘って話題になった世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフと羽生の企画対決が催された。結果はカスパロフ氏の2戦2勝に終わったが、感想戦の際に羽生が熱心に嬉しそうに話していたのが印象的。

勝ち負けは勝負のあやだが、闘う前から圧倒的に自分より上位者と闘うなど将棋で経験できないだけに、それが羽生にとってチェスの魅力かも知れない。当時のカスパロフ氏のレーティングが2800だと仮定した場合、羽生の勝率は5~6%程度(引分け含む)という計算になる。これは奨励会三段が羽生に勝てる確率よりも低い。まあ、あくまで計算上のこと…。

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将棋最強棋士の羽生、チェス最強のカスパロフ、フィッシャーを「餅は餅屋」というべきか、似て非なりの将棋とチェス。こと我々にチェスのことはよくわからないが、羽生も同じ気持ちだろう。いや、羽生は「将棋は分からない」が口癖だから、「分からないレベル」が高いのだろう。分かったようなことをいう人間は、彼らの「分かるレベル」が低いといえる。

老子の言葉に、「言うものは知らず、知るものは言わず」というのがある。これは「何も言うな」ではなく、「奢るな」の戒めであろう。とりあえず自己主張は大事である。それがブログのモチベーションでもある。「正しいことしか言わない」、「間違ったことは言わない」という自負があるのはいいけれど、そういう奴に限って他者批判をする。

以前も書いたが、暇な学者が専門の言語学において、他人のブログでいちゃもんばかりつけて粋がっているが、「学者が素人を責めてどうする?」は渡部昇一の弁である。「いらぬ節介、するが節介」というが、暇人学者の節介が素人ブロガーの楽しみを粉砕する。間違いなど気にせず自己主張すればいい。なぜブログが読まれ、かくもブームになっているか?

それは愚直だからである。人間なんて所詮はバカであって、こんなところで自己主張できるのも、無料奉仕でやっているからで、だから未熟であろうと、間違いがあろうと、日々の状態を思うがままに実感を込めて書いていられる。そこに知ったかぶりが、「言葉がおかしい」、「日本語がなってない」などは、うっとうしい。バカにちょっかいを出すバカと無視すればいいのよ。

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ブロガーは愚直でバカだからいい訳で、人を傷つける何様よりは罪なき善意行為者である。バカで愚直ゆえに変化も向上もみられる。繰り返すが、本も出せない暇な学者の格好の餌食になどなることない。山本七平の、『日本人とユダヤ人』を〝ニセ本"と批判した浅見定雄に対する風当たりは強い。アカデミズムにおいても社会学見地から山本の評価は高いのだ。

話が反れたが、IBM「deepblue」と対戦したカスパロフは、「機械に人間と同じ知性を見た」といった。最強棋士のカスパロフさえ正しい手を打てない。というより、彼の手をミスと見極めたdeepblueといった方がいい。人間は自己絶対化を克服すべきであり、自分が絶対正しいなどという自体、人間の愚かさである。ある将棋棋士が、コンピュータについて意見を聞かれた。

「コンピュータの出現で、人間の視野がいかに狭いものであったか、を気づかされた」と率直に答えていた。分かりやすい分析である。人間は人間を超えることはできなかった今、人間はブリキの箱という機械から新たな学習をするしかない。悔しいだろうが、それのことが人間の自己絶対化の克服であろう。「自己主張」=「絶対に正しい」は誤解である。

所詮、人間は傲慢である。なぜなら、人間は自分と違ったものには反応するが、自分の日々の生活に、「なぜ?」はない。他人はそれを「?」と思っているハズであろうと…。「強者の論理」を行使する人間の、甚だしき自己欺瞞である。自分の弱さを弱さと認められぬ人間に、人間としての偉大さはない。所詮は小高いお山の大将として下界を見下ろしているに過ぎない。

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deepblueの勝利は、最高知性を所有する人類が、機械にその座を明け渡したという歴史的快挙だが、deepblueの研究チームの一員であるタン博士は複雑だった。「引き裂かれるような思いでした。人間に勝つ知性を機械に求め、その夢が実現したのはむしろ人類の勝利かも知れません。その一方で、人間の知性が機械に敗れたという重みを受け止めねばなりません。」

究極的には、我々は機械に人類を超える知性を求めていないのではないか?「天才棋士の一手」という表題は、これまでに我々が遭遇した棋士たちの、人間離れした「一手」に驚嘆した。後に具体的な詳細を記すが、羽生の5二銀、加藤一二三の6二歩、谷川浩司の7七桂、そして3日前の藤井聡太の9七玉は、人間の人智がもたらせた、「至高の一手」である。

deepblue対カスパロフ戦で、deepblueが打った驚愕の一手は、第2局目の36手目のPawnだった。このとき誰もがQueenを動かすと予想し、カスパロフもその対策を立てていた。解説者はこのように言う。「チェスプレーヤーは、決定的な一手とはどのようなもので、相手にどんな感じを与えるか知っている。このときも、deepblueQueenを動かせば勝ちは明らかでした。

それほどの必殺の一手で、誰も疑う者はいなかったでしょう」。ところがdeepblueは、長考の末にQueenを動かさず、人々を驚かせた。この時のカスパロフの驚きとも困惑ともいえぬ表情が印象的である。解説者は言う。「もしこの時、deepblueQueenを動かしていれば負けであったことが後で分かった。カスパロフが素晴らしい反撃を用意していたからです。

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なぜdeepblueがあの一手を思いついたのかは謎です」。試合開始から3時間44分後、deepblueに圧倒されたカスパロフは負けを認め、予定していた記者会見も行わず、憤慨した様子で会場を去る。「カスパロフはショックで恐怖に慄き、一睡もせずdeepblueの思考法解明に取り組んだが分析できなかった」、とカスパロス陣営はいう。カスパロフはそのまま敗退した。


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