カルピスを2倍希釈で飲むことで驚く人は結構いた。昔、ジュースといえば、「バヤリース」オレンジジュースくらいだったが、その後に、「プラッシー」というのを米屋さんが配達していた。「タケダのプラッシー」は、医薬品メーカー武田薬品の食品事業を行う武田食品の製造で、オレンジの繊維が混入されていて、いかにも搾りたてジュースという感じが好評だった。
バヤリースは1951年、プラッシーは1958年発売で、前者は1本10円、後者は1本30円だった?子どもにとって5円のラムネが勝った。バヤリースは開発者の名だが、プラッシーの意味は、「プラスビタミンC」を縮めたもの。月決め契約で米屋が毎日配達していたが、瓶の回収が義務づけられたものの、不慣れな米屋にあっては瓶の回収が滞る状態が生じたようだ。
どちらもサラリの薄いジュースだったが、子どもにとっては高級飲料である。当時の子どもは一袋5円の、「渡辺ジュースの素」という粉末を水に溶かさず食べていた。食べるというより舐めるが正解だ。今の子どもが即席めんを食べているようなもの。あれがジュースだった時代に比べて、昨今は100%ジュースの時代である。贅沢な時代、いい時代になったものだ。
カルピスは1919年に発売以後、基本的に希釈飲料を継続している。希釈飲料は面倒だが、時々の気分で好みの濃さを造れる。とはいっても自分はいつも2倍だが、あのどろどろ感がいい。どろどろ感を初めて味わったのが不二家ネクターピーチで、あれはジュースを超えた果物に近いものだった。当時、子どもが病気になった時しか食べれない桃の缶詰の味がした。
果物好きの自分は、摺りおろし感のある濃いジュースを好むゆえ、不二家ネクターを初めて飲んだ時は感動だった。1964年発売当時のネクターピーチは、果肉ピューレ(果実由来の不溶性固形物)45%使用し、高級感のあるソフトドリンクとして市場人気を得た。当時はジュースとはいえ、無果汁が多く、人工甘味料や合成着色料を使用した製品が主流だった。
甘い物が好きな幼児やどろどろ感好き消費者の需要は少なく、1990年代には、これらネクターにアルコール飲料を加えた缶チューハイ(焼酎カクテル)も登場、口当たりが良いとして若い世代を中心に人気を得た。しかし、時代は変わるもので、清涼飲料水の位置付けが、従来の舌を楽しませる物から、喉の渇きを癒すためのものへと変化して行ったのだ。
そうした濃厚ブームの終焉もあってか消費は落ち込んで行く。数年前、不二家ネクターを何十年ぶりに飲んでビックリだった。「うん…?、これがあのネクターなわけ?」すぐに分かるほどに薄い。それもそのはず、かつて果汁45%が今は30%表記となっていた。このサラリ感が現代人に好まれるのか?糖分、糖類を貪った我々世代とは質が変わってしまった。
カルピスの歴史は古く、生まれた時には存在していた。そのカルピスが、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で、日本で初めて乳酸菌飲料に指定されたのが1951年。「初恋の味」という甘酸っぱいキャッチフレーズに憧れたが、高級飲料ゆえにか買ってもらえず、家で飲んだことがない。近所のおばちゃんが飲ませてくれた味が忘れられない。
カルピスが原液で発売された理由は、家庭用冷蔵庫のない時代に糖度の高い原液であることが長期保存を可能にした。1本で30杯飲めるとのキャッチフレーズにも得得感はあった。それでも家にあった事はなかった。1950年代のカルピス価格は調べるも不明。「初恋の味」にしてあの黒人マークは妙な印象もあったが、1990年、人種差別問題に配慮して中止となる。
日本初の乳酸菌飲料は、その健康性もあってヤクルトが追従した。カルピス系乳酸飲料好きの理由は、酸味と甘さのバランスである。夏には炭酸水で2倍に希釈して飲むが、喉ごしの良さは、「カルピスソーダ」などは論外。カルピス原液と牛乳を1:1(薄め好きは牛乳を多め)にポッカレモンを適量、タッパで冷凍庫に約四時間おけばカルピスシャーベット。
以前から抱いていた、「乳酸菌飲料」に対する疑問は以前からあった。「腸で働く乳酸菌」などのキャッチも多いが、胃酸に打ち勝ち、死なないで無事大腸まで辿り着くのか乳酸菌たち。これには意外や、乳酸菌が生きて腸に届く意味はないという事らしい。「生きて腸に届く」は、商品を売るためのキャッチコピーで、生きているかどうかを気にする必要はない。
朝日新聞2007年8月4日付け土曜日版の、「be report」によると、腸内細菌の権威、光岡智足・東大名誉教授は、「乳酸菌はたとえ腸に届く前に胃酸で死んだとしても、その菌体成分が小腸の免疫機能を活性化する。最近は、花粉症などのアレルギーや、かぜを予防する効果も報告されている。死菌でも効果があることをメーカーはあまり言いたがらない」と語っている。
また、腸内環境改善を目的とした健康食品開発に携わる岡田恭一氏は、次のように説明する。「乳酸菌は体外から摂取した場合、いくら胃酸で死滅せずに腸まで生きて届いたとしても、腸まで届いたあとには死滅して排出される。体外から入った菌は人間の腸管内には定着できない」。とはいえ、必ずしも乳酸菌が生きたまま腸に届くことに意味がないわけではないらしい。
「生きた乳酸菌は大腸内の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やす効果があります。ただし、生きた乳酸菌だからといって腸内にそのま住みつくわけではありません。なので、効果を出すためには生きた乳酸菌を毎日摂り続ける必要があります」。と指摘する理化学研究所バイオリソースセンタ―微生物材料開発室室長辨野義己氏。彼は「うんち研究室」で知られている。
辨野氏は女性の美容と腸内環境について、「腸内環境と皮膚は密接な関係にあり、肌の健康を含め、若さや美しさを保つためには、腸内環境が重要です。女性は大腸の環境が悪く、女性のがんの死亡率は、乳がんや胃がんを抜いて大腸がんが1位。腸内細菌のバランスが崩れると、便秘や感染症、大腸ガンなどさまざまな腸疾患の原因となるので注意が必要です」という。
腸内細菌の様子を知る一番の方法は、自分の便を観察する。「ストンと気持ちよく出せたか、どれくらいの量か、黄い色をしているのか、臭いはどうかなどをチェック。そこから、理想的なうんちを作るにはどういう食事がいいのかを考える」と辨野氏。今や、食事は考えて食べる時代であり、毎日見事なうんちと対面できるなら、がん予防になり、若さも保てる。
カルピスなどの乳酸菌飲料は整腸作用以外に効能もある。乳酸菌による整腸作用とは、腸内で糖分を分解させて大量の乳酸を作りだし、腸の蠕動運動を活発にし、便の水分量を調整して排便をスムーズにする。善玉菌が増えることで悪玉菌を減少させ、便秘や下痢などの悩みを改善するほか、上記した便秘で起こる肌荒れも改善するなど、美肌効果も期待できる。
乳酸菌は善玉菌(ビフィズス菌)を活性化し、ビフィズス菌は乳酸と酢酸を作り出す働きがあり、酢酸の強い殺菌力によって有害な悪玉菌の繁殖を抑え、腸をすこやかに保つ。悪玉菌が増えると便の腐敗臭がきつくなるだけでなく、体調不良に陥りやすく、大腸にポリープやがん発生リスクも高まる。腸内環境を整えると、免疫細胞を活性化させて免疫力をアップさせる。
これによってインフルエンザなどに強い体を作る。また、アレルギーの発症に大きく関与する免疫細胞の、「Th1細胞」と、「Th2細胞」のバランスを整え、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を緩和する効果も期待できる。カルピスが開発した、「L-92乳酸菌」をスギ花粉症患者に一定期間摂取させたところ、症状の有意な緩和が認められた。
スーパー、コンビニ、ドラッグストア、自販機――。街のあらゆるところで売られているペットボトルや缶などの清涼飲料。その入れ替わりは激しく、新しい商品が次々と登場しては消えていくが、カルピス、ヤクルトは激戦のなか長期間存在を示している国民的飲料である。カルピスは年間11億本を売り上げている。大正時代から変わらない味の秘密とは?
そのカルピスの生みの親として知られる三島海雲がモンゴルに旅行した際に体調を崩した。そこで現地でよく飲まれていた酸っぱい乳(発酵乳)を飲んで元気になり、「発酵乳は凄い!」と感じた経験にヒントを得て発明された。三島が見いだした、「カルピス菌」は、偶然発見されたもので、世界広しといえど他では手に入らず、1%の社員のみによって厳重管理されている。
100年受け継がれているカルピス菌の原液がなくなれば、2度とカルピスは製造できない。ゆえにトップシークレットとなっている。世界で愛される地球的飲料コカ・コーラの独特のレシピも門外不出のトップシークレットで、限られた社員のみしか知らない。2006年、コカ・コーラの社員数人が、その企業秘密をペプシに売りつけようとして捕まった事件があった。
ペプシはコカ・コーラ社秘伝のレシピを買わなかった。ばかりか、ペプシは連邦警察に通報し、おとり捜査にも協力した。何故か?実はペプシにとってコカ・コーラのコピーを製造するメリットはなかった。ジェネリック薬品のように、効能が同じで値段の安いコカ・コーラを作れば、コークもペプシも、それまでより悪い状況に陥るとの理由だったようだ。
コカ・コーラの秘伝レシピは125年の歴史だが、カルピスの秘伝原液も100年継ぎ足しながら作られている (研究開発本部岡本正文氏)。これは江戸時代からの老舗鰻屋の秘伝のタレのようなものだが、味だけではなく、偶然生まれたカルピス菌は、科学が進んだ今の時代においても、「無」から「有」を作れないらしい。第二次大戦中も、一時的に疎開させたという。