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事件から学ぶ  「心中」 ②

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「心中」について数行の書きかけがあったので加筆する。澁澤龍彦は、「心中」を美学というが、あくまで情死のことであって、母子無理心中にあらず。母はしばしば子を道連れに命を絶つが、男には理解できない行為である。自ら産んだものは自分の所有物ということだろうが、男にとって我が子は他人感覚でしかない。母親の子どもに対する傲慢さは種々経験した。

娘を他人に殺される親もいる。遺族の悲痛な叫びは理解に及ぶ。かと言えば、自ら産んだ乳児、幼児を手にかける母親は少なくない。12月23日午前9時55分頃、兵庫県姫路市網干区浜田の会社社宅に住む男性(30)から、「妻が息子と自分自身を刃物で刺した」と119番があった。救急隊員が駆け付けたところ、男性の妻(32)と1歳2か月の長男が寝室で血を流して倒れていた。

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妻と長男はいずれも重傷といい、県警網干署が殺人未遂事件として捜査している。ベランダに出ていた夫が室内に戻ったところ、2人が床に倒れ、妻の胸に包丁が刺さっていたというが、夫の言葉通りなら未遂であるが無理心中ということになる。夫の機敏な通報で命は取り止めたことになる。育児で悩んでいたというが、だったら殺してしまえってものでもなかろうし…

無理心中を企て、子どもを殺して自分は死ななかった母もいる。先に自分を刺せ!親の絶望は子どもに関係ない。相手に冷たくされたという池永、相手に避けられたなら受け入れるべきだが、それができない愚か者である。彼は裁判の被告人質問の際にこう述べている。「別れるなら裸の画像を流出させると言ったし、いかなる方法であれ、交際を続けたかった」。

その反面、「(彼女)を脅してまで関係を続けるのはおかしいと思い、忘れようとしたが(気持ちが)積もっていった」。そういう反動心理は分からぬもない。忘れようとすればするほど思いはつのる。それでどうする…は、人格の問題だ。人は愛を失った時に本質が露呈する。悲恋感情は、日に日に克服されていくものだが、それができないのは依存心の強さ。

親が幼児期から子どもの教育について、「依存心」というものを最重点に育てなければ、依存心はあらゆる情動の要となる。入試に失敗して自棄になるのも、事業などの仕事や恋愛や、取り組む一切の対象に、自己愛的同一視を行う場合、そういう人間が対象を喪失したときは、同時に自己喪失となる。これが対象への自己愛同一視。対象が自分の価値を吊り上げる。

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親から甘やかされて育ち、依存心を植え付けられた人間は、依存心を当然のものと捉えているが、依存心は与えられるものであり、自らがなんとかして、「手にいれたい」、「奪いたい」と思ってもじっとしていては何も受け取れない。したがって、「依存心」という悪害を断ち切るためには、まずは自らが「依存心」に気づき、手放す努力をしなければならない。

ブスがイケメンに憧れるのも自己愛的な恋である。「女は容姿ではない」という自分も、美人と出会い付き合うこともある。イケメンは性格が悪いと言いながら、それでもイケメン好きという女には、強いコンプレックスがあるようだ。いろいろな人間の世の中であり、いろいろな価値観が充満するが、兼好法師のように、「我はこう思う」が自然な成り行きだ。

「徒然草」は時々読む。「心にうつりゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくる」からオモシロイ。あれは原文のままに読める唯一の古典で、大層な素養はいらない。だから中学や高校の古文の教科書にも載っており、読みやすいことにおいてはこれに適うものなし。「徒然草」には、青年⇒大人の変貌のプロセスがそのまんま出現してしまう点もオモシロイ。

現代人の男はいくつになっても大人になり切れないようで、そのことを自覚するから悩む。したがって、自覚しない人間より、「悩む」という点においてはるかに勝る。「過ぎ去った恋などどうしようもない…」⇒(静かに思へばよろずに過ぎにしかたの恋しさのみぞ、せんかたなき)。「徒然草」の二十五段から三十二段にかけてはまさにそれ。昔も今も人は悩む。

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社会システムや経済の流通は大きく変わったが、人の悩みの本質は相も変わらずのようだ。物書きの文体は様変わりしているが、「徒然草」の如く、心に浮かびし事そこはかとなく書きつくりたい。名文でなくともいい、書いて楽し、読んでまた楽しが理想だが、楽しいが何かもイロイロだし、楽しいばかりでもダメだし、大事なことは、「素直に気負わずに」かなと。

「手のわろき人のはばからず文(ふみ)書き散らすはよし。見苦しとて人に書かするはうさし」(第三十五段)。⇒字が下手でも書くのはいいことよ。書かなきゃいつまでも下手のまま、書けば上手くもなろう。見栄を張って代筆などはヤメレ。文は心だから、自分の言葉を人に取り次がせて、何の自分の心であろうか。「心」が純粋であるなら、下手文字とて美しい。

文章も同じ。ある人のブログが、かつての純粋さという輝きをなくした。他者の意識が増したか、あるいは見栄も生じたか、装いが増している。文に現れる変化は分り過ぎるほどに分かる。斯くいう自分も、装いを排した生身の生き様を書きたい、書こうとすれども、人は完全に自由にはなれない。そのことをひしひしと感じる。それが分かるところは救いである。

文が下手だからブログは書けない。という人は、書きたくないが前提にある。「字が下手だから書きたくない」と同じ言い訳で、字が上手いから文が書けるものでは決してない。昨今は便利になったものだ。長時間ペンを持つとペンダコが痛むほどに筆圧の強い自分だが、今はペンも紙もいらない、インクもいらない、消しゴムもいらない、消しカスもでない…。

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問題は、「何を書くか」であって、何も難しいことを書く必要性もなく、最も身近な、「性」の問題が人間に共有の話題であろう。「性」といっても羞恥な秘め事にあらず、異性について素朴な疑問など書くのは、誰にでも安易で可能ではなかろうか。男にとって女が謎であるように、女にとっても男は得体の知れぬ生き物だ。しかし、双方は愛し合い、求めあう。

そういう中で「情死」を遂げる多くは、愛し合う男女であり、彼らを脅かす社会や他人から完全に背を向け、自分たちの世界に閉じこもり、無常観を凌ぐためにか性の恍惚の極致たる、「小さな死」の瞬間を、美しくも永遠化しようとする。人の命には限りがあるが、に比べて死は永遠である。これが心中の意味であろう。互いを紐で結わえた心中死体の美しき哉。

愛する者同士の、永遠の行為を僅か一回限りの情熱として、死にまで高めようとする情死の美学である。二人は死ぬことで永遠に生きる。相手を裏切ることもない、死という最高の保証と献身に他ならない。我々が他人の情死を美しく思うのは、二人は来世できっと結ばれるであろうとの想像を抱くからだ。そのように思うことが二人の死に対するいたわりである。

どう考えども愛し合う者同士は、愛の確実性において生きるべきと思うが、なぜに死を選択するのだろうか。「愛の唯一の法則は、愛する人を幸福にすること」とスタンダールが言ったように、それが死ぬことであろうハズがない。妻子ある人と許されぬ愛に苦悩する時代であった。昨今において不倫というのは、コソコソやる事で許される行為のようである。

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立小便で逮捕されれば1万円未満とはいえ科料が発生するが、不倫で逮捕されることはない。つまり、不倫は立小便にも値しない罪ということになる。配偶者を苦悩させるが、社会を混乱させる罪ではないということだ。愛と社会においてはいかなる相関関係にあるのか?愛という情念の形は、社会を望ましい共同体に変える力を持っているのだろうか?

人々が愛の感情を抱き、自分たちを一個の生命体の一部とみなし合うことで成り立つような共同体を唱える宗教は少なくない。ヘーゲルはそうした共同体をイエスの企てとした。イエスは権利社会の住人であるユダヤ人の策略で捕らえられ、社会の支配者であるローマ総督によって処刑された。このことからヘーゲルは、「愛」は権利社会を変革する原理にならないと悟る。

愛はうつろうもの、確固たる持続性なきもの、そうした感情の一形態としての愛を讃美するのはいいが、教会の誓いは簡単に反故にされる現実を見ても、愛は権利社会の構築とならない。「汝は汝の愛によって終生の愛を誓え!」と…、言わずもがなキリスト教は命令の宗教だ。「干渉しないでくれ、俺は好きなことをする権利がある」と、これが権利社会である。

心中を永遠の愛の誓いと称するのはいい。どう解釈する自由は許される。が、現実的に見れば、心中は愛の終焉であり、実体としての愛はその時点で終わっている。にも関わらず、傍観者は、「二人は永遠に結ばれたのだ」と御悔みの言葉を投げかけないではいられない。実体としての愛が消滅しているにも関わらず、投げやりな言葉は酷いということなのだろう。

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生きることが全て、死ねば一切が無に帰す。生きているだけが人間で、死ねば白骨となるが、ならないうちに人為的に骨化させる。子を己の死の旅路に連れて行く母に、どうして子どもへの愛があろう。愛とエゴはまさに紙一重だが、愛とエゴを混同する、「母」のイカレタ頭脳。自らの人生は終焉させるとも、子に夢と希望を託すことこそ永遠の愛ではないか。


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