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女性の道を切り拓いた人たち ④

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福田英子は生涯忘れることができない明治15年と言ったのは、岸田俊子の講演を傍聴したこと。演題は、「政府は人民の天、男は女の天」、「岡山県女子に告ぐ」。岸田は美貌の上に弁舌さわやか、要旨も明晰にて澄んだ声がよく透る。艶やかに結いあげた島田に上品な白襟三枚重ねをさりげなく着こなす壇上の麗人であり、英子はそんな島田に圧倒された。

岸田俊子(後の中島湘烟(しょうえん))は、女権拡張運動家である。文久3年(1864年)、現在の京都府に生まれ、京都府女子師範学校(現京都教育大学)に入学するも病気のために退学した。その後、1879年に山岡鉄舟らの推挙により、宮中に文事御用掛として出仕し、皇后(後の昭憲皇太后)に漢学を進講するも、1881年秋に御用係を辞め、各地を遊歴する。

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「天」は人の上にある存在だが、女権拡張運動家の岸田が、「男は女の天」としたのはその意味にあらず。「天男地女」といい、天は男性に配し、地は女性に配し、天が地を覆うのが本来の陰陽の道で、「夫唱婦随」は天(陽)地(陰)の法則に合致する。女性上位の家庭は地が天を覆う形となり、天地の法則に反す。こういう家庭は、何かとトラブルが絶えない。

いつ頃からか、「かかあ天下は夫婦円満の秘訣」などと言われるようになった。おそらく給与が銀行振り込み全盛になった頃か?あるいは、他にも理由があるのかも知れない。亭主関白の家庭はうまくいかないわけでもないが、かかあ殿下を望む男が増えた気もする。「その方が楽だ」という男はいる。が、女が上位になって離婚が多くなったのでは?との懸念もある。

物事の最終決断を女性が決めるのはダメとは言わぬが、決定権を持つなら責任を取る覚悟がいるし、それが男の覚悟であるが、「女の責任逃れ」はどこにでもあるが、「女の覚悟」というのはあまり聞かない、似合わない。自分は女の責任逃れを認めている。なぜなら、これを認めない限り、女を追い込み、攻め倒すことになる。逆に、「男の責任逃れ」は絶対に認めない。

男の言い訳や弁解は聞かないし、耳に入れない。男に責任逃れなど許されるものではなく、いかようにも攻め倒すが、女にそれはできないし、したくない。なぜなら、女は自らを追い詰めると涙を出す。そういう時の女の涙は、男の自分にはさっぱり理解できないが、ある女は演技といった。が、何にしても女の涙は許すしかなく、男なら社会的に許容されることはないだろう。

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直近の例でいうと、浅田真央がGPフランス杯で自己ワーストの9位に終わった。ジャンプに精彩もなく、スピード感もなく、明らかに力が落ちたということだ。1年間の休養後に再びリンクに上がる際に佐藤コーチが、「そんなに甘いものじゃない」といったようだが、浅田は聞き入れず、トリプルアクセスを反対するコーチに反抗するなど、折り合わなさが伝わった。

左膝痛など体はボロボロなどとメディアはいうが、負傷を推してやると浅田が自分で決めたことなら理由にならない。女の涙の理由はどうであれ、男なら恥ずかしくて見せられない。綺麗に選手生活を終える選択はあった。「夢をもう一度」の挑戦は結構だが、夢が上手く行く保証はなく、リスクはリスクとして受け止めるべきである。泣くほど辛いなら止めたらいいのよ。

男のこうした批判を厳しいという女性はいるが、男はこういう考えで社会を生きている。自分に甘えず、他人に甘えずが基本であろう。甘えは言葉を変えれば依存である。「一匹狼」はまこと男に似合う言葉で、男を「狼」に例えるなら、女は何であろうか?何であろう?狐くらいしか思い浮かばないので、検索してみたところ、好き勝手な言葉が並ぶ。「ブタ」、「ハイエナ」…

「羊」や、「カマキリ」など。「狼」も決して良い言葉ではない。『かまきり夫人の告白』という映画があった。主演が五月みどりで、交尾の後でオスを食い殺すカマキリを例えたもの。「エマニエル夫人」の公開にあやかったタイトルらしいが、「一匹狼」に匹敵する言葉は女性にない。一匹狼とは群れから離れて単独で放浪する狼をいい、そういう男を指している。

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と思いきや、「女子同士で群れない、『一匹狼女子』が魅力的な理由9パターン」などという記事があったが読むのは止めた。最近はこういう記事ネタは多く、情報過多時代には正しい情報の取捨選択が必要となる。寂しがり屋の依存女は多いが、孤独を好むなら自然なことで、取り立てて取り上げることでもあるまい。福田英子はそんな強い女性であったろう。

好むと好まざるとに関わらず彼女の生涯というのは、婦人解放運動の先駆的実践者であり、「東洋のジャンヌ・ダルク」と呼ばれた英子も、実は孤独と、経済的困難、末子千秋の死など、晩年は為すすべもなく恵まれなかった。身体は晩生だが精神早熟にして、18歳で上記岸田俊子(中島湘煙)の演説に触れたことで、自由民権運動に参加した。彼女はこう記している。

「世に罪深き人を問はゞ、妾は實に其随一ならん、世に愚鈍なる人を求めば、また妾ほどのものはあらざるべし。齢人生の六分に達し、今にして過ぎ來し方を顧みれば、行ひし事として罪悪ならぬはなく、謀慮りし事として誤謬ならぬはなきぞかし。羞悪懺悔、次ぐに苦悶懊悩を以てす、妾が、回顧を充たすものは唯々是のみ、鳴呼實に唯是れのみ也。

懺悔の苦悶、之れを愈すの道は唯已れを改むるより他にはあらじ。されど如何にしてか其己れを改むべきか、是れ将た一の苫悶なり。苦悶の上の苦悶なり。苦悶を愈すの苦悶なり。苦悶の上又苦悶あり、一の苦悶を愈さんとすれば、生憎に他の苦悶來り、妾や今實に苦悶の合圍の内にあるなり。(中略)

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顧へば女性の身の自から揣らず、年少くして民権自由の聲に狂し、行途の蹉跌再三再四、漸く後の半生を家庭に托するを得たりしかど、一家の計未だ成らざるに、身は早く寡となりぬ。人の世のあぢきなさ、しみじみと骨にも透るばかりなり。若し妾のために同情の一掬を注がるゝものあらば、そはまた世の不幸なる人ならずばあらじ。」

逮捕、投獄、結婚、夫の死別などを経て、社会主義者と交わり、「世界婦人」を創刊、「婦人解放」の論陣を張って生涯反権力の姿勢を貫いた、「東洋のジャンヌ・ダルク」福田英子。昭和2年4月初旬、日本橋三越へ買い物に出かけ、帰宅後に行水をしたのが悪かった。風邪を患ったうえに、生来の心臓病を併発し、5月2日午後6時5分、女性解放に捧げた生涯を閉じた。享年63歳。

小林に借りたジャンヌの伝記を英子はあっという間に読了。再読、三読した。樟雄への敬慕から婚約を交わす。英子は、「大阪事件」で4年間の投獄を経て、獄中で知り合った40代半ばの大井憲太郎に恋心を抱き、媒酌人を立てた小林との正式な婚約を破棄する。「これがあなたへの最後のお手紙です。(中略) 一方的ですが、あなたとの婚約を破棄、絶縁する」という文面である。

英子の後の窮乏生活はドラマにも描かれている。与謝野晶子宅にサチを伴に着物を売りに行くが、「出版物の売れ行きが悪くて毎月赤字なんですよ」と言って断られるも、「お値段はおまかせするので、お弟子さんでどなたか御入り用の方にでも…」としつこく食い下がる。サチはその様子を、「いつもの英子にあらず、彼女は小さく縮んで見えた」と回想する。

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ジャンヌは国王の裏切りにより、火あぶりの刑で生涯を閉じた。英子も岸田俊子が男爵で神奈川県県令中島信行の後妻になったと聞き、強い裏切り感を抱く。「私は今、たったひとり、八方塞がりである。どう生きていけばいいのか、私の生き方は間違っていたのか?そんなはずはない。彼女が堕落したのだ。岸田俊子が堕落、堕落したのだ」。苦悩の記述が痛々しい。

英子は、清の朝鮮支配に反対する民権グループに参画し、爆弾の運び屋を務めたとして懲役刑を食った、「青鞜の女」だが、婚約を破棄してまで愛した大井憲太郎は根っからの遊び人で、方々の女に手を出し、隠し子まで発覚した。情熱的な恋文に裏切られた思いを自伝に綴っている。彼女の男遍歴は止まず、その後も12歳も年下の書生、石川三四郎と同棲を始める。

お忍びの男女関係であった。晩生女というのは、一端火がつくと止まらないと言われるが、そうした恋多き女の一面が、斯くも石川三四郎というたぐいまれな大物人徳者を、歴史の彼方から呼び戻してくれた。そんな石川も英子宅に一時寄宿していた十代の娘を妊娠させている。娘は海外留学中の婚約者の帰りを待つ身であった。男も男なら女も女である。

如何に徳あれど、下半身に人格はない。その石川も、「外国へ行く」と言い残し、彼女のもとを去る。英子と石川の間には一子がいたとされる。英子は晩年、縁の切れていた石川に、「末子に名を継がせてほしい」と頼み、石川が快諾したという逸話が伝わっているのを見ても、英子は石川を愛していたようだが、男に魅せる女の何かが、英子に不足していたのだろう。

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「男というものに懲りたはずの自分がどうしたのだろう。この男こそ自分の半生を不幸不運に陥れたヤツだったのに、返す返すも不覚、我が一生の過誤であった。」

この男とは小林樟雄との婚約を破棄してまで飛び込んだ大井憲太郎である。この告白は女性の責任転嫁のようでもあり、才媛としての理知(自己責任感)ともいえる。人を責めらば心は軽い、自己を追い詰めれば心苦しい。どちらを選ぶも女の自由な感性なら、男の理知に責任転嫁の文字はない。自ら思考し、行為の結果がどうであれ、他人に責任があるハズがない。


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