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貧乏は遺伝する ②

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街がイルミネーションで彩られ始めた11月中旬の夜。九州のある街で、母の梓(42)と小学6年の美雪(12)、小3の直樹(9)、小2の沙織(8)=いずれも仮名=の3きょうだいが「子ども食堂」ののれんをくぐった。母親は入るときためらいもあってか、少しうつむいていたが、子どもたちを、「ただで食べられるレストランがあるんだ。ママも料理作らなくて楽だから行こう」と連れ出した。

「家が貧乏だと思われたくない」から、ごまかした言い方である。子どもたちは、食堂の和室に座ると、「レストランじゃないじゃん」などと、正直なのがあどけない。それでも、ミンチカツの載ったカレーライスとナシが運ばれると子どもたちは、「すごーい、ナシだよ。カレーだよ」と素直な笑みに変わる。無言でカレーをかき込み、カチカチとスプーンが皿に当たる音が響いた。

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 元気な声で、「おかわり!」。美雪は3杯、直樹も2杯をたいらげた。「おなか、ぺこぺこで来たんです」と母の梓は涙声。来たときは緊張した様子だった子どもたちも、カレーを食べ終わると、沙織が、「しちろく しじゅうに」と学校で習ったばかりの九九を唱え始め、みんなの笑い声が上がった。久しぶりのだんらんで、「おなかも心も満たしてもらった」と梓は感謝した。

夫とは数年前に離婚。パート従業員としてスーパーで働き、賞味期限が切れた食品をもらっていたため、食べるものには困らなかった。ところが夏にスーパーが突然閉店し、働き口を失った。貯金もなく、月に16万円あった収入は10万円程度の失業保険だけになった。就学援助を受けて小学校の給食費は免除されているが、アパートの家賃に光熱費、持病を抱える子どもの通院代などの支払いは待ってくれない。

豆腐ばかりの鍋やキャベツの千切りで我慢し、食費を節約してぎりぎりの生活を続ける。子どもたちは、給食以外に食べ物を口にできない日もあり、「おなか減ったよ」と繰り返した。そんな時、インターネットで子ども食堂の取り組みを紹介する本紙の記事を読み、「自宅近くにもないか」と探して見つかった。すがる思いで運営者にメールを送った。

「財布に小銭しかなく、悩んでいます。子どもたちだけでもご飯を食べさせてください」初めて子ども食堂に来た日、梓の財布には200円ほどしか入っていなかった。「またレストランに行こうね」、「今度はどんなごちそうが出るのかな」。子どもたちも食堂を気に入った。あれから何度か通い、古米をリュックサックいっぱいに詰めてもらったこともあった。

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美雪が熱を出して寝込んだ時は、家で雑炊を食べさせることができた。だが、失業保険はあと数カ月で切れる。来年、美雪は中学生になり学費もかさむ。せめて高校までは行かせたい。美雪と直樹が夢中になっているサッカーも月に4千円ほどかかるが、続けさせてあげたい。ハローワークで再就職先を探す日々。子育ての制約があり条件がなかなか合わない。

ほかの公的支援が受けられないか福祉関係者に相談しながら、なるべく早く生活を立て直したいと思っている。「子ども食堂に偶然出合えて、ありがたい。生活が安定したら私が子ども食堂に寄付して支えたい」この子ども食堂が開かれるのは週に1度。梓のような親子のほか、住む家がない少女、子どもたちだけで暮らす少年たちが訪れ、寄る辺ない生活の中でひととき、空腹を満たす。

経済的貧困や親のネグレクト(育児放棄)など、さまざまな事情で十分な食事を取れない子どもたちのための「子ども食堂」が、九州でも広がっている。ひとり親世帯の3割が経済的理由で食料を買えなかった経験がある、との調査結果もある。気軽に立ち寄って、悩みを相談できる居場所づくりを兼ねている場所も多い。だが、運営は自費や寄付で賄うところが大半だ。

善意が、子どもたちの空腹を満たしている。「おかわり!」、「僕も!」。ちゃぶ台を囲んだ子どもたちが元気な声を上げる。10月25日、福岡県久留米市の「くるめこども食堂」。商店街のイベントスペースで8月に開設され、毎月最終日曜日にカレーライスを提供している。子どもの負担は300円だが、絵を描いたら100円引きでおかわり自由。この日は約40人に100皿を提供した。

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運営する河野大助さん(38)は子どもたちにあえて事情は聞かない。「自分が子どものころは近所のおっちゃん、おばちゃんが何も聞かずに世話を焼いてくれた。そんな大人が必要」という。子ども食堂は2012年8月に東京都大田区の青果店が始めた。河野さんは今年7月にニュースで知り、電気やガスも止められ、満足な食事にありつけなかった自分の少年時代を思い返した。

「同じようにおなかをすかせた子は今も大勢いる。見過ごすわけにはいかない」。支援者などから野菜の提供を受け、足りない分は自費で運営を続けている。国立社会保障・人口問題研究所の12年7月の調査によると、子どもを抱え、過去1年間に経済的な理由で食料が買えなかった経験のある世帯は、ひとり親世帯で32%、両親がそろう世帯でも16%に上っている。

福岡県の教育関係者は、「給食頼りの小中学生で、夏休み明けにげっそりとやせてくる子もいる」と明かす。長崎市の内にはうどん屋を改装した「夢cafe…ひまわり」がある。昨年11月から、毎週木曜日の午後6時半~9時にカレーを無料提供している。「今日初めてのごはん」とうれしそうに食べる子ども。自費で運営する川井健蔵さん(68)は子どもの学習会も開いている。

「問題山積の子どもにも夢や目標を持ってほしい。必要な支援へと、子どもをつなげる場を目指したい」。福岡市博多区の板付北公民館では、食育活動などに携わる人たちが今月28日から、毎月第4土曜日に昼食を出す準備を進める。子どもが持ち寄る200円と公の基金を活用する。若者の貧困や孤立問題に取り組んできた、福岡市の一般社団法人「ストリート・プロジェクト」も動き出す。

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昨年4月から、JR博多駅前のマンションで15~25歳を対象に無料で食事を提供。支援者が寄付の食料を利用したり、古本の売却益などで運営する。坪井恵子理事長(55)は「ここに来る子たちは虐待など重い課題を抱えているが、まずはおなかを満たしてもらわないと本音も聞き出せない。『ご飯を与えれば解決』ではなく、長い目で多方面から支援していきたい」と語った。

ひとり親家庭となる原因の8割は離婚。厚生労働省の調査によると、年間の離婚件数は1950年代は7万台で推移していたが、2002年の約29万をピークに、14年も約22万2000と高い水準にある。11年度の調査で、母子家庭は約124万世帯、父子家庭は約22万世帯。一般世帯の男性の平均給与所得(10年)は507万円だが、母子家庭の母親の平均年間就労収入(11年度)は181万円。

母子家庭の場合、パートやアルバイトなど非正規の割合は47.4%に上る。父子家庭の父親も360万円にとどまる。厚生労働省の調査では、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の割合(子どもの貧困率)は、2012年で16.3%と6人に1人となり、過去最悪となっている。母子家庭を中心に大人1人で子どもを育てる世帯に限れば54.6%に上る。

九州はより深刻で、就学援助受給率などから西日本新聞が試算した結果では、ほぼ5人に1人が貧困状態とみられる。こうした状況は周囲からは見えにくい。貧困家庭の子どもが必ずしもぼろぼろの服を着ているわけでもない。公立高校の教師は「制服を着ていると同じようにみえるが、授業中、机に突っ伏して空腹に耐えている子もいる」と話す。

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大学や短大への進学率は13年の全世帯の全国平均53.2%に対し、生活保護世帯は19.2%にとどまる。学歴は生涯賃金に大きく影響する。中学3年生の通塾率が6割を超える中、十分な教育を受けられない貧困世帯の子どもの貧困が次世代に連鎖、抜け出せなくなる構図がある。貧困は子どもから「機会の平等」を奪う。「困っている子どもを救いたい」と思う人は少なくない。

どうすれば子どもたちに必要な支援が行き届くのか。政府の貧困対策の充実など具体的な解決策に結びつくのか。多くの子どもは親の何がしかの理由で、貧困生活を強いられるこ戸になる。「子どもに明日を…」社会全体で考えるそんな状況にある。親の離婚や破産の例もあるが、病気で働けなくなった場合もある。特に親が欝や統合失調症など精神疾患などは深刻だ。

厚労省が2005年1月~14年3月に子どもが虐待死した777事例を分析したところ、実母に「育児不安」があった事例が25%、「精神疾患」と「うつ状態」がそれぞれ14%(複数回答)みられた。一方、東京都の05年の調査では、育児放棄などの児童虐待が行われた家庭のうち、3分の1が貧困状態であり、子どもの生活や命にまで影響を及ぼしかねない状況である。


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