格差の要因は単に親の経済問題にとどまらない根深さがある。格差は家庭における文化として伝達され、生活様式全般が子に受け継がれて行くことになる。「貧乏や、貧困は遺伝する」という言葉が言われるような、そんな危険な状態に入ってしまった日本である。2015年8月28日、安倍首相は子どもの貧困を防ぐための政策を年内にまとめる方針を表明した。
政府は、「子どもの貧困対策法」の具体化の一環として、ひとり親家庭の支援策などをまとめた。親の失業や離婚などによって家庭の経済状況が悪化し、貧困状態に置かれる子どもたちの問題は依然として深刻で、「貧困線」を下回る所得しかない世帯で暮らす18歳未満の子どもの割合を示す「子どもの貧困率」は、2012年に過去最悪を更新して16.3%にのぼっている。
子ども6人に1人は貧困家庭で、給食費が払えない子どもも珍しくない。また、ひとり親の増加によって放置児童も増え、夜中に外をうろついて事件に巻き込まれる子どもも出てきている。子どもの虐待も増え、児童虐待相談も急増するなど、貧困から派生する問題が深刻化し、そのしわ寄せが子どもたちに及びとあっては、もはや政府も座視することができない。
2015年11月4日、厚生労働省は就業形態の多様化に関する総合実態調査の結果を発表した。これによると、パートや派遣労働といった正社員以外の労働者の割合(事業所調査)は昨年10月時点で40.0%となり、調査開始以来、初の4割に達した。今回の調査から官公営の事業所も調査対象に入り、厳密な連続性はないが、2010年の前回調査から1.3ポイント増加している。
日本の企業は高齢化対策もあって、企業が雇用する従業員の数はむしろ増加している。その雇用を維持するために正社員の数を減らし、非正規社員の割合を増やすことで総人件費の抑制を進めてきた。この動きを止めるためには、企業が生産性をさらに向上させ、賃金増加の原資を確保する必要があるが、現在の日本企業はそのような状況になっていない。
したがって、非正規社員増加の理由は「賃金の節約」であり、その根本要因は、日本企業が儲かる体質になっていないこと。「貧困は遺伝する」など遺伝学的にはあり得ないが、子どもの貧困を放置する無策政治を行っていては、子どもの将来及び、日本の社会全体に大きな問題を及ぼすことになる。その理由の一つとしていわれるのが、「貧困の連鎖」である。
貧困世帯に生まれ育った子どもは貧困から抜け出せず、あたかも「貧困が遺伝する」ような様相を見せることから生まれた言葉である。長野県に住むあるシングルマザーは悲惨である。2年前に生活保護を受けるまで、彼女の食卓に常に並んだ献立は、白飯、サラダ油、しょうゆである。ざっくり混ぜて食べると、油のコクで空腹が満たされるというのだ。
最初はツナ缶の残りの油をかけていたが、缶詰は買えなくなった。長女(9)と次女(8)は「おいしいよ」と食べた。おなかをすかせた2人は生活保護を受ける前には、母に隠れてティッシュペーパーを食べていた。次女は塩をふり、長女は、「ティッシュって甘いのもあるんだよ」と、教えてくれた。いい香りのもらい物ティッシュは、噛むと一瞬甘いという。
2010年、夫の暴力に耐えきれず家を出た。派遣社員として工場で働き、月収は多くて15万円で、うつ状態で休みがちになる。収入は減少、光熱費を滞納し始めた。滞納が国民健康保険料にまで及ぶと役所から呼び出され、「収入10万円でも払っている人はいる」と職員に言われた。12年暮れ。次女が風邪をひいた際に訪れた病院の小児科医に生活保護を勧められた。
申請の申し込みに行った役所で欝と話しても、「もう少し働いたら」と促され、申請をあきらめた。その後、クレジットカードのキャッシングを繰り返したが、数カ月で返済が滞った。13年暮に電気を止められた。ろうそくのともる部屋で長女から、「死んじゃうの?」と聞かれて決意。小児科医の助言もあって生活保護を申請。欝で就労困難として認定された。
現在は月18万円ほどで暮らすが、なかなか申請に行けなかった理由を振り返る。「周囲の厳しい視線を感じて殻に閉じこもった。周りの人もがんばってるんだから自分だけ甘えるのは恥ずかしく、なかなか言い出せなかった」と…。かと思えば、大分県別府市では、朝からパチンコ三昧の生活保護受給者が遊戯施設巡回員に見つかり、支給額を減らされた。
2年前にも、生活保護費の不正受給やギャンブルへの使用を禁止した、「小野市福祉給付制度適正化条例」が兵庫県小野市で施行されたことで、多くの賛辞が寄せられた。「市民感覚からすると、受け入れられないでしょう」、別府市の職員は言う。別府市の調査は、2015年10月の計5日間、市職員35人が市内にある13のパチンコ店と市営別府競輪場を巡回を行った。
見つけた生活保護受給者25人を一人ずつ市役所に呼び出して注意し、次の巡回で再び見つけた場合は1か月分支給額を大幅に減らした。調査を始めた理由について市の担当者は、「別府市は他都市に比べて生活保護の受給率が高く、遊興施設も多いです。市民感覚からすると、受給者が昼間からパチンコ店に入り浸る様子は受け入れられるものではないでしょう」と話す。
受給に該当すべく人が受給に敵わず、受給に相応しくない者が受給を受けているといった、これも世の中の矛盾である。貧困世帯の遺伝(連鎖)があるというなら、生活保護を不正に受給しながら遊びほうけるような親も、子どもに受け継がれることだろう。子どもは環境の中で育ち、多くの刺激や様式を受けていく。親の貧困は子に責任はないが、ズルイ親の責任は大きい。
遺伝と言えば容姿や性格や、気質・体型が遺伝するというように、肉体的・精神的なものについて、親のDNAを受け継ぐことを指すが、貧困とは社会現象であって、遺伝とは結びつかない。だから、「貧困が遺伝する」という言い方は適切ではないが、それなのに、遺伝と結びつけられている。「貧困が遺伝する」という言葉には、実は2つの意味が含まれている。
(1)貧困者の子供は自動的に貧困生活になる。
(2)貧困者の子供は一生貧困のままで終わる。
(2)貧困者の子供は一生貧困のままで終わる。
重要なのは、(2)の部分。貧しい家庭に生まれた子どもが貧しい生活をするのは当たり前の現象だが、問題は彼らが一生その世界から抜け出せない可能性が高いということ。なぜ、貧困の中で生まれた子どもたちは、そこから抜け出す可能性が低いのか。キーワードが「教育」である。現代社会は複雑、専門的であり、そこで働くためには一定レベルの教育が必要となる。
したがって、現代社会が高度な知識・技術・技能を求めている以上、教育レベルは高いほど良い。その人間が妥当な教育レベルにあるかないかを出身大学で判断したりの企業もあろう。特に専門職なら高いレベルが必要となる。そういった教育を受けるためには本人の資質も重要なのだが、その資質を伸ばすための学校なりに通う「教育費」も重要になって来る。
ここに資産家の子どもが比較的「高学歴になりやすい」理由がある。お金持ちにとって教育費に何の問題もなく、ありとあらゆる教育サポートが可能になる。本人が望まなくとも与えられ、何ら資質がない子どもであっても、資質を伸ばすべく環境が用意される。財力があれば、場合によっては学歴さえも金で変えるなら、どう考えても「金持ちは得」、「貧乏人は損」となる。
中身はともかく、表面的には学歴や所持資格で「飾る」ことすらも可能になっていく。貧困層は日々の生活をやりくりに精一杯で、子どもの教育に投資することなどできない。また、貧困層の環境も、学歴を向上させるような雰囲気になっていないことも多く、子どもにいくら資質があったとしても、その資質は活かされることなく眠ったままになってしまうことが多い。
ここまで書くと、貧乏人は何の活力もない、どうにもならない状況に思える。が、そうならないようにするのが親の親力であろう。貧困家庭に生まれながらも知性と能力を発揮し、努力で成り上がっていく子どもたちもいる。そういう子どもたちの何が違うかは親であろう。資産家で金持ちの子どもにどうしようもないバカ、マヌケがいるが、親の態度遺憾で子どもは変わる。
諺や成語や慣用句ではないが、こういう言葉がある。「一流の親から一流は生まれない。一流は三流の親から生ずる」。自分はこれを「一流は三流からの法則」といっている。世の中を見渡せばそういう例は少なくないし、心当たりも多い。親が一流であるのは最高の師という環境であり、遺伝子的にも恵まれているはずだが、なぜ一流から一流が生まれないのか?
様々な理由があるが、独断と偏見で思考した法則である。物事に100%はないし、例外も少なくないが、こと、「一流は三流からの法則」においては、極めて例外が少ないようだ。「親バカ子バカ」、「蛙の子は蛙」、「瓜の蔓(つる)に茄子はならぬ」、「トンビが鷹を生む」など、才能の遺伝はあってもなくても、こと一流に関しては遺伝を超えた努力のたまものだろう。