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少年Aエピローグ

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先日、書店でふと懐かしい女性の名を目にした。下重暁子である。彼女の著書が平積みされており、懐かしさもあって著書をぱらぱらめくってみた。書籍のタイトルは『家族という病』(幻冬舎新書)である。彼女が書き物をしているのは今日の今まで知らなかったが、後で検索するとかなりの数の著書がある。数は数えなかったがタイトルに「女」という字が目立った。

「女」のつく著作のみ数えてみたら32冊あった。その中でも数を占めていたのが「女性24歳」という文字。女でないから分らないが、「女性24歳」というのは何かあるのだろうか?心当たりといえば妻の結婚年齢が24歳であったくらいで、「女性24歳」に対する特別な思いや感慨はない。下は24歳関連のタイトルがつく下重の著作である。しかし、何で24歳なのだろう。

『ゆれる24歳 私に語ったOLたち』(サイマル出版会、1977年)
『女性24歳からのライフ学 女が上手に自立する方法』(大和出版、1978年)
『コーランの声が聞こえる 私のカイロ日記』(サイマル出版会、1978年)
『女性24歳からのライフ学』(大和出版 1978)
『女性24歳からのキャリア学』(大和出版 1979)
『女性24歳からのライフ学 女が上手に自立する方法』(大和出版 1986)
『二十四歳の心もよう』(講談社、1986年) 
『女性24歳からの自分学 “シングル感覚”でしなやかに生きる法』(大和出版、1987年)
『ゆれる24歳 女20代の生き方』(講談社+α文庫 1994)
『ゆれる24歳プラス5 in N.Y、』(講談社 1999)

ネットで「24歳・女性」で検索いれてみたら、「女性は24歳がいちばん可愛い」とあった。可愛いとは何がどうかわいいのかよくわからんが、こじつけっぽい気もする。「女性は24歳、27歳で悩む恋愛と結婚の関係」というのもある。興味もないので本分は読まなかったが、24歳ということでいろいろ調べてみたら、1970年の女性の初婚平均年齢が24.2歳であった。

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確かにその当時、25歳過ぎた女は行き遅れとまでは言わないにしろ、晩婚といわれていた。なるほど、下重暁子はその辺りをターゲットに「女性24歳」本が多いのだろう。ところで目に止まった『家族という病』は今に言われたことではない。酒鬼薔薇事件で少年Aが逮捕されたとき、休日には近くで家族全員がバトミントンするなど、少年Aの家族の仲のよさが報じられた。

同時に事件の重さ、大きさから「欺瞞家族」といわれたりもした。下重の『家族という病』は書店でめくった程度で何が書かれていたか分らない。「家族という病」についてなら、自分で考えるられる。酒鬼薔薇事件のときも、『積木くずし』のときも、家族っていったい何?などと考えた。家族という形態は夫婦がいて子どもがいて、いや、それ以外にもいろいろある。

夫婦のどちらかがいない家庭、兄弟・姉妹のいる家庭、一人っ子の家庭、祖父母が同居の家庭、親子だけの家庭、などに分類される。一言で家族といえども家庭の数だけさまざまな家族があるのだろうが、少年Aの供述調書を読むと、彼の家庭は自分に照らしてみて少し歪な感じがした。彼は中学一年から三年間卓球部に在籍したが、登校拒否の一ヶ月前から部活に行かなくなった。

検事:「君は、友達などに、学校に行かない理由として『先生から殴られた』とか、『先生が来なくていいと言ったから』等と話したことはないか?」

少年A:「そのような話をしたかどうかハッキリ覚えてません。仮に、話していたとしても、それは僕が学校に行かない理由付けを適当に話したにすぎず、本当の理由とは違います。

少年Aは5月15日から登校をしていない。部活は4月中旬から行かなくなったが、部活をサボっているのが親に知れると叱られるので、毎日タンク山に登って時間をつぶし、部活に行っていた同じ時間に家に帰るようにしていた。タンク山とは5月24日に淳くんを殺害した場所である。彼の家庭が歪といったのは、部活に行っていないのに、親には行ってるように思わせていた事。

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子どもは親に分かれば怒られるから言わないで黙っておく、あるいは隠すということをやるが、少年Aは母親を父親より怖れていたという。少年Aの家庭的背景を母親の手記などからおさらいしてみる。少年Aは、1983年に中流家庭の長男として生まれ、弟たちよりも厳しい躾を受けて育った。厳しく育てたのは母親である。父親は仕事熱心で、2-3週間家を空けることもあった。

休日出勤も珍しくなく、たまの休みにもゴルフに出かけることが多く、父子の関係は薄かったようだ。父親の欠如を埋めたのは母親である。母親は世話好きで教育熱心であった。少年Aが小学生だった頃から、地元の子供会の面倒をよくみて、皆が嫌がるPTA役員も積極的に引き受けた。弟たちの模範の兄になってもらおうと、母親は幼年期から彼を厳しく躾けをしたという。

小学校以前は午後5時までに自宅に帰らせ、その時刻を過ぎると家に入れないこともあった。少年Aは母親の愛を十分に受けているとは感じていず、これは、彼が生まれた翌年に次男が生まれたことと関係する。母親の手記によると、次男に授乳している時、少年Aはよく泣いたというが、両親の愛情が新しく生まれた次男に向かうことで、長男なら誰でも経験する嫉妬である。

少年Aは時に激しい嫉妬をみせたが、母親の愛情を受けられた期間が1年程度と短かく、これがその後の母親への憎悪につながった。少年Aに父の役割を果たしたのが母親、母の役割を果たしたのは祖母であった。祖母は、母親に叱られている少年Aをかばったりした。少年Aも祖母には甘え、祖母にねだって買ってもらった愛犬を「おばあちゃんの犬」と呼んでかわいがった。

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そして祖母の言うことには反抗せずに従った。少年Aが小学校5年生のとき、祖母が亡くなった。「おばあちゃんの犬」も、中学に入る頃に死んでいる。これによって、彼は、愛し愛される他者を失う。両親や学校は彼にとって抑圧であった。検事は記者会見で、「祖母の死をきっかけに、死とは何かについて強い関心を抱くようになった」という動機解明を述べた。

少年Aは、早い段階で暴力に目覚めていた。それを示す幼児期体験がある。彼は小学校入学前、近くに住む少し年上の小学生から奴隷のように扱われていた。幼い彼は、このガキ大将の命令で、友達に頭から砂をかけたり、女の子を道路の側溝に突き落としたり、をさせられ、従わないと暴力を振るわれた。少年Aが頭をはたかれ「すいません」と謝っているのを友人が目撃している。

マゾヒズムとサディズムは鏡像的反転関係にあり、どちらもエロチシズムの快楽に根ざしているとバタイユは指摘する。少年Aは、最初は暴力に脅されて暴力を振るっていたが、引越しでガキ大将と縁が切れた後も、弱いものいじめという苦痛に満ちた、同時にサディスティックな欲望行為を何度も繰り返す。彼の最初の暴力は、カエル、鳩や猫といった小動物に向けられる。

少年Aは、鑑定医の質問に対し、次のように答えている。「初めて勃起したのは小学5年生で、カエルを解剖した時です。中学一年では人間を解剖し、はらわたを貪り食う自分を想像して自慰をしました」。淳くんの事件が起きる2年前から、須磨ニュータウン近隣で、虐待された跡のある猫の死体が方々で発見されている。そのことについて彼は調書でこう述べている。

イメージ 5「僕自身、これまで何十匹という猫を殺して、首を切ったりしましたが、猫だとナイフ一本で簡単に切れるし、もっと大きなもの、しかも僕と同じ種族である人間を切って見たいと思いました。」淳くんの首は、彼の欲望によって実行され、首を切っているときのことをこう表現した。「僕は今、現実に人間首を切っているんだと思うと、エキサイティングな気分になりました。切り落とした淳くんの首を地面の上に置いて鑑賞しました。地面に置いた淳くんの首を正面から見ましたが、しばらくは、この不思議な映像は僕が作ったのだという満足感に浸りました」。少年Aは数枚の猫の舌を塩水に浸した小瓶をジーパンのポケットに入れて持ち歩き、「家の天井裏にあと十枚くらいあるから、欲しかったらあげるで」と友人に言ったりしていた。

ある同級生が少年Aの猫虐待の話を言いふらしたことで、この同級生は少年Aに殴られることになる。後に少年Aは、「学校の先生に殴られて学校に行かなくなった」と言ったようだが、これはどうやら、「同級生を殴ったので学校に行かなくなった」の置き換えのようである。友だちに猫の虐待や塩漬け舌のことをバラされ、教師や周囲の自分を見る目線が苦痛だったのだろう。

自分の秘密や汚点を言いふらされてバツが悪い、体裁が悪い感情は誰にもある普通の感情である。人と違った特異な、異様な感性を持った人間は珍しくはないが、それをじっと黙っている人間もいる。真面目で純朴そうに見えた男を彼氏にして、あるいは結婚して、いいようのない変態気質で別れた女もいた。「私はAV女優じゃないんで…」という言葉を男に投げている。

そのような性的刺激を煽るビデオなどが普及し、若いうちからそういう物をマニュアルとしてしまう男が増えても珍しくはないし、「女は誰でもあのようにされたいのだ」と思ったところで、過激なAVビデオが彼らの教科書なのだ。酒鬼薔薇事件を普通の少年犯罪とするのは正しくない。太田出版の見解にある「少年犯罪の発生の背景を理解…」など取ってつけた詭弁である。

酒鬼薔薇が中学生と判ると、メディアやマスコミは学校や家庭や地域社会に問題があるのではと疑ったが、事件発生当時、学校側に落ち度はないし、少年Aの母親はしつけは厳しいが、所謂「お受験ママ」ではなかった。神戸市には、灘など名門私立学校があり、中学受験競争も激しいが、少年Aは多くの同級生とは異なり進学塾にも行かず、また二人の弟が通った書道教室にも行かなかった。

イメージ 6勉強にはうるさくない母親だった。よって、この事件を説明するのに、「学校の管理教育による抑圧」、「受験競争による心の歪み」、「地域社会の崩壊」といった、現代社会を象徴する批判は当てはまらない。淳くん殺害時期には、自治会活動としてパトロールが行われるなど、コミュニティの連帯は健全であった。となると、少年Aの何が問題だったのか?先に、"弱いものいじめはエロチシズムの快楽"と言ったが、少年Aの生育環境で問題、あるいは児童に向けられた5件の犯行の要因は、幼児期に味わった、弱いものいじめによるエロチシズムの反復強迫ではないか。「女子高生コンクリート詰め殺人事件」にも言えることだが、無抵抗の少女を拷問・虐待することで快感に酔うのは人間のプリミティブな欲動である。

中世ヨーロッパの拷問道具や日本の拷問道具を見るに、人間の倒錯心理や幼児性が類推される。傲慢な権力者が倒錯心理に至る背景にあるのは人間の孤独感であろう。誰にも内在するものが少年Aにあって、誰もが抑制するものが少年Aになかった。情操とか情緒といわれる、いわゆる美しい景色、美しい音楽、可愛い赤ちゃん、可愛い少女、可愛いペット的小動物…。

美しい花を無残にへし折り、小動物を足蹴りにするなどの情操の無さは種々原因があろう。ある感慨や感情の収め方が、屈折した方向に行ったと考えられる。自分も母親に幼少時期に虐待され、思春期時期にもいわれなき仕打ちを受けたが、母親には徹底無視という交戦態度を遵守した。そして反抗の「論」を磨くことを自分に課した。力をつけるより、頭で勝負を挑んだ。

多くの子どもが親に反抗するのに、理屈を言う。特に男の子を持った母親は、女の子の情緒的な詭弁に比べて、男の子特有の論理性にやり込められる。母親の手記にあるように少年Aは、弟の見本になるようにとの懇願を軸に育てられた。その事が自身の衝動や欲動を押さえ込む要因となったろう。ストレスを解消できたのが祖母の存在だった。これは自分も同じであった。

お兄ちゃんはいい子でいなきゃダメ、いい子であるべき…!何のために?「弟のためにです」。という親の勝手な論理に、「冗談じゃないよ!」と、思うのが正直な人間であり、「はい、分かりました。その期待に添います。」と、いうのは偽善者である。もっとも、仕込まれた偽善は内面化されるから、本人には意識にない。あるいは、弟の見本というのを心地よいとする性格もある。

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たしかに「人の見本になるのが心地いい」という情動も存在する。どれも人間の情動だが、この中で屈折した性格になりやすいのは偽善的行為者であろう。偽善者というのは、人にいい顔をするが、心は忍耐ということだが、忍耐という我慢の箍が外れて憎悪に移行したりする。顔に出せない、言葉にも出せないという風に生きてきた偽善者の箍が外れると、これほど怖いものはない。

少年Aのことを分かって言っているのではなく、人の心を分析するのは難しいが、自分の体験や、様々な人的体験、社会経験から、人物像を特定すると、自分の思考エリアでは上記のようになる。人間なら誰にも発生する喜怒哀楽にあって、その中で怒りの収め方、あるいは生きていく上での矛盾から発生するストレスの処理の仕方、収拾方法はさまざまにある。

怒りの静め方も人に聞くといろいろであるのがわかる。ストレス解消もいわゆる「気晴らし」という言い方で、それこそさまざまにある。酒、女、博打、スポーツ、瞑想、宗教、読書、映画・演劇鑑賞、音楽鑑賞、楽器…、それらは無難というか一般的だが、いじめ、悪口、買春あるいは売春・それに類するエンコー、衝動買い、愉快犯罪、自傷、自殺…これらは「負」の解消法だ。

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のっけに「家族という病」について述べたが、自分の考える家族とは何か?家族という理念はあるのか?子の自由という権利に対して親はどうあるべきか?その前に、子に対する親の情を貫こうとするなら、親は子が「自由の権利を持つ」という事を否定しなければならない。「あなたの将来、未来を思って…」この詭弁が通用する子にはいいが、否定されたら、まさか殺すのか?

親の子殺しは支配者としての君臨に翳りがでたこと、あるいは絶望したことで起こり、子の親殺しは、「自由への渇望」、「自由の権利」が実現できないことへの仕打ちである。押さえつけられて反発しない着せ替え人形に育てられた奴が、"窮鼠猫を噛む"のことわざではないが、「50歳になってやっと親に反抗できるようになった」と、遅咲き自我を自慢していた。


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