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『進撃の成功人』 諌山創 ①

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唯一絶対主義や画一主義を肯定する者もいるが否定派もいる。価値観多様化の時代にいろんな形の幸せが見つけられ、どんな境遇であれ「自分が好きだ」ということは、唯一絶対に抗うことになる。勉強より野球が好きだったり、漫画を描くことが好きだったりは、親の絶対的権威に抵抗するパワーとなり、反対されても止めないことこそがその人の夢を叶える原動力になるのだろうか。

何がしかの成功を果たした人には、「これが好き」、「これをやりたい」などが明確にある。自分が好きな何かに邁進することは幸せなことだろう。今年の巨人の大進撃は原監督に変わったこともあるが、カープの弱さも原因であろう。そのことはいいとして、『進撃の巨人』の原作者諫山創は、紙に漫画を描くのが仕事であるが、彼こそ成功を絵に描いた人物である。

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「小学校低学年の頃、避難訓練で行った公民館のテレビで、偶然『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』という映画を観たんです。2匹の毛むくじゃらの怪獣の片方が木を根っこから引き抜いて、片方の怪獣をガンガン殴るシーンが凄く怖くて…。昔のことなので正確な記憶ではないかもしれませんが、影響を受けていることは確かです」と子ども時代を回想する。

これが諫山の原点といえるだろう。彼の成功の鍵はこうして植え付けられたと考える。幼少期から、「グロテスクなものに惹き付けられてきた」と語る諫山は絵を描くことも大好きだった。「小学校や中学校の教科書は、落書きで真っ黒でした」と語る彼にはこんな記憶も蘇る。「原チャリで高校に通っていましたがある日の下校中、ふと泣きそうになったことがありました。

ハンドルを握りながら漫画家になる自分をイメージしてみたら、『絶対になれない!』という結論が出た。当時の僕は、自分の描いたキャラクターを他人に見せるのが苦手でした。自分の内面をモロにさらけ出してしまう気がして、凄く恥ずかしかった。でも、そんなことでは一生漫画家になることはできない。今思えば些細な事ですが、あの時は目の前が真っ暗になりました」。

内気でナイーブな少年だったが、「これではダメだ」と悟り、自己変革の努力が彼を押しあげていく。夢を諦めきれず、福岡県内にあるマンガ専門学校に入学した。同じ道を志す仲間と巡り会い、他人からの評価を受け入れられるようになった。「初めて人に見せたのは、専門学校の授業のお題で1コママンガを作った時で、そのとき描いたのがアンパンマンでした」。

イメージ 2専門学校在学中の'06 年、東京の出版社へ作品持ち込みを兼ねた旅行で、諌山はデビューのチャンスを摑む。講談社に投稿した60ページの短編マンガ『進撃の巨人』が、『週刊少年マガジン』のマンガ賞の佳作に選ばれたのを機に上京。読み切りマンガの執筆を経て、'09 年10月号の『別冊少年マガジン』から、連載向けに練り直した『進撃の巨人』をスタートさせた。

担当編集者は、初めて諫山氏の作品を読んだ時のショックをこう振り返る。「原稿用紙から、『オレはこれが描きたいんだ』という情熱がほとばしっていました。絵はヘタだったけど、他の作品にはない抜きん出た才能を感じました」。才能の本質は「無比」なのかも知れない。その人にしかないもの、誰にも真似できないもの、それを個性というなら、個性こそが才能である。

広い視野を持つ諌山はこんなことをいう。「『進撃の巨人』は司馬遼太郎の『坂の上の雲』に影響を受けています。絶対的不利な相手に立ち向かう人間の描写が参考になりました。この世に100%オリジナルの創作物なんて存在しません。名作といわれるものほど他の作品からよいエッセンスを吸収しています」。「無から有を生む」のではなく、「有から個を創る」という。

漫画家の仕事は大変な労力が必要で、原稿用紙を前に。下描き→ペン入れ→消しゴムで下書きを消す→効果線を入れる→ベタ塗り→はみ出し線の修正→トーンを貼る→セリフを入れる。さらにはテーマから始まり、ストーリーや構想、コマ割りなど気が遠くなるような作業である。実際に漫画を描く現場を見て、よほど好きでなければあんなことはできないだろう。

好きなことを職業にするのは一見幸せなことのようだが、締め切りに追われて徹夜が続いたり、納得の行くアイデアが出てこない苦しみもある。それでも「好きなことを仕事にしたい」は誰もが考える。だからといって、「明日から好きな事だけやります」というほど甘いものではない。したがって、好きなことはあえて職業にせず、趣味にとどめておくのがいいとの考えもある。

何事にもメリット、デメリットはあるが、才能というのは永遠に評価されるものではないし、職業に限らず読書でも運動でも奉仕作業やサークル活動など、どれをとっても永続するものは日々の労苦の上に積み重ねられるものだが、同じ労苦とはいえ積極的な労苦と消極的なそれとでは大きくことなる。自分の好きなことは労苦の度合いが少ないとなろう。だから、好きなことは続けやすい。

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