尾崎亜美を初めてレコジャケで見た時、ワリとかわいい表情だなと思ったものの、その後に映像で見た時は「おむすびコロリン」的なブスだった。が、ブスだったことに親近感を抱いた。レコジャケの画像というのは、修正まではしなくとも、プロカメラマンによる何十枚のスナップ撮りからいいものを選ぶ。写真というのは瞬間だから、それはそれは超絶見栄えする瞬間もあろう。
が、映像は連続なのでそんなにうまくはいかない。修正も効かない。そういえばお見合い結婚が主流だったころ、お見合い用の写真をどれだけ美しく撮るかが、写真屋さんの腕のみせどころだった。が、写真を念頭に実物を見て、「これって別人?」と思った人たちの何と多きこと。過去にレコジャケでもっとも騙されたのが因幡晃である。彼の実物映像を初見したときの驚きは今も忘れない。
「こ、これが因幡晃?」彼もポプコン出身者でブサメンは当然にしても、『わかって下さい』のレコジャケはあまりに、あまりのカッコよさに、「それはないだろう」と思った人は多かったろう。「詐欺プリ」という言葉は近年のものだが、『わかって下さい』(1976年2月リリース)のレコジャケはとんでもない「詐欺ジャケ」。容姿はともかく因幡の声と才能には異論はない。
尾崎亜美は1976年に『瞑想』でデビューしたが、この時期の音楽シーンは自分の中では途絶えていた時期。仕事と恋愛中心に生活が回っていたからだ。だから、尾崎亜美は知らなかった。三曲目の『マイ・ピュア・レディ』が、資生堂のCMソングに起用されヒットし、一躍注目を浴びる。その時は楽曲以上に小林麻美のCMモデルが話題になり、曲のヒットにも影響した。
小林麻美の美しさはブサ好みの自分としては、あまりにリアル感がないほどに、神の如きに美しくスタイルもよい。松田優作主演の映画『野獣死すべし』では、優作から胸に銃弾を浴びて死んでしまうが、彼女の死ぬ場面のスローモーション映像は、人の死の美しさが高濃度で表現されていた。「優作!こんなべっぴんさんを殺してはダメじゃないか!」と思った一人だ。
『マイ・ピュア・レディ』の亜美のレコジャケは、普通にブサイクに田舎娘っぽく映っているが、おそらくこれも何十枚からの一枚だろう。心に残る曲 『マイ・ピュア・レディ』 としたが、この曲を好んで聴くようになったのは、ここ4~5年前であるがこれもYou-Tubeの御利益であろう。映像付きのYou-Tubeが手軽に聴ける時代になってか、ここ10年くらいCDを買っていない。
映像のインパクトはかなりのもので、聴きながら視るという相乗効果である。音楽は五感といわれるなかの視覚、聴覚を刺激する。残りの嗅覚、味覚、触覚はなくとも十分。五感全部を堪能できるのはSEXであるらしい。視て、聴いて、触って、臭って、味わって…、いわれてみればその通り。だから人気があるのか?それプラス法を犯しているとの刺激が加わる不倫が廃る理由はない。
『マイ・ピュア・レディ』は、『マイ・フェアレディ』をもじったもので、「フェアレディ(fair lady)」の意味は端正で美しい人だけでなく、fairには、「口先だけ、うわべだけ」の意味もある。1964年にオードリー・ヘプバーン主演で映画化もされたが、1956年3月~1962年9月までブロードウェイで6年6ヵ月に及ぶ2717回のロングラン公演となったミュージカルのタイトルである。
「My Fair Lady」の由来は、ロンドンの高級住宅街「メイフェア(Mayfair)」であるとの説がある。したがって、「高級住宅街に住む下町出身の貴婦人」と、かなり皮肉を込めた意味がある。『マイ・ピュア・レディ』の意味は歌詞から感じるに、♪あっ気持ちが動いてる、たった今~恋をしそう、のところなのか。勘違いかも知れぬが、何がしか意味付けをする自分がいる。
純粋、純潔という意味のピュアな気持ちとの意味であろう。そんな気持ちで生きていたいとの願望もあろう。当時20歳の尾崎はレディというよりほんの少女であるが、あくまで「マイ・フェアレディ」をもじったもの。楽曲のヒットは編曲のウェイトも大きく、松任谷正隆のアレンジもいい。時代の感性を見事に捉えたこの曲は、若者にメロディと尾崎亜美の名を刻み付けた。
『マイ・ピュア・レディ』は尾崎亜美というシンガーソング・ライターの名を世間に知らしめることとなったが、尾崎の名を不動にしたのは『オリビアを聴きながら』(1978年11月発売)ではないだろうか。元は杏里に提供された楽曲で、発売当時はオリコン最高で65位で売り上げも5万5千枚と大したヒットではなかったが、時を経て多くの歌手にカヴァーされ名曲となる。
そういえば作詞家の松本隆がこんなことをいっていた。「あっという間に100万枚売れた曲より、何十年もかけて100万枚売れた曲の方が価値が高いと思っている」。松本のいう高い価値とはパッと売れて忘れられる曲よりも、地道に多くの人に愛されたことを示す。スタンダードナンバーともいうが、これは“多くのカヴァーもあって広く親しまれた楽曲”という和製英語である。