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心に残る曲 『風にのせて』 イルカ

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イルカの1stアルバム「イルカの世界」(1975年3月5日発売)のA面4曲目に収録されている。当時この曲を1日に一回は聴いていた。LPレコードを最初から順ぐり聴くことはせず、聴きたい曲だけはしょって聴く。本曲と6曲目の『あいつ』だけを聴いていた。時たま2曲目の『冬の忘れ物』と7曲目の『シルエット』を聴いたりと、アルバムとはそんなものかも知れない。

イルカのヒット曲といえば誰もが知る『なごり雪』。この曲は「かぐや姫」のメンバー伊勢正三の詩・曲になるが、彼女は伊勢にぜひこの曲を歌わせて欲しいと頼み込んだというが、『なごり雪』は75年から76年にかけて大ヒットし、最終的には80万枚ものセールスを記録したという。この他に彼女がとりあげた伊勢の曲は、『あいつ』、『雨の物語』、『海岸通り』など、いずれもヒットした。

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『なごり雪』の前からイルカを知る自分にとって、『なごり雪』のヒットは戸惑い気味だった。あまり陽の目を浴びず、人にも知られることのない名曲・楽曲を発掘するのが好きな自分にとって『なごり雪』は、突如現れた絶世の美女に人気が集中したような感じを抱いた。あまりにもてはやされるものは放っておいてもいいだろうと、マイノリティを自負する人間の考えはそういうものだ。

物心ついた頃からなぜか「少数派」を生きてきた。だからか人気の映画は観ない、ベストセラーは読む気がしない。美女に興味はわかぬのもそういうことか。イルカの魅力は不美人の容姿?そうは言わぬが、確かに彼女は美人類に属さない。容姿がいいだけで好きになる女優も歌手も一般人もいないが、ブサイクを好んで好きになるということでもない。そういうものには影響されないということ。

少し太めのイルカの声には中性的な魅力がある。前回、八神純子と高田真樹子の『私の歌の心の世界』の批評をしたが、八神の透明感ある声が高田の世界観に合わなかったと指摘したように、高田の太く厚味のある声に説得力が感じられた。音楽に限らず芸術全般においては、説得力というものが「感動」を呼び起こす。だから、美しい、綺麗だけではダメだと、それを人間にも当てはめてみる。

専門的な音楽理論や理屈を抜きに、誰かのヒット曲をカバーをしても、足りないものは感じられる。オリジナルだから良いのではなく、オリジナルを超えたかのような説得力ある歌い手はいる。例えば中島みゆきの楽曲は演歌歌手も含めた多くのアーチストが歌っているが、研ナオコのみゆきには圧倒されるだろう。オリジナルより表情がある。みゆきは研ナオコについてこんな風に述べている。

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「貴女(研)が歌ってくださるのを聴くと、もとは貴女がシンガーライターとして生み出した作品に聴こえてくる(中略)。この場合、私(中島)の役目は貴女の筆記用具だったかも知れません」。「私はあなたの筆記用具」とは遜った誉め言葉としても、賛辞として秀逸な言葉ではないか。『時代』は好きな曲、芸人としての研ナオコは好きではない、が、研の中島みゆきカバーアルバムは速攻で買った。

ナオコにあってみゆきにないのが「哀愁」である。楽曲をどう受け取るかによるが、みゆきは明るく歌いナオコは切なく歌う。本来は比べるものではなく、どちらの良さにも浸ればいいとは思いつつ、無意識に比べてしまう。元はナオコがみゆきの楽曲の世界に衝撃を受けたところから始まったわけだが、ナオコはみゆきの、「男にふられる世界」を彼女なりに表現して見せてくれたのだった。

研ナオコの歌うみゆきは音楽関係者間でも評判がいい。ナオコ自身も中島みゆきを歌うことへの重圧はあったようで、こんな表現で述べている。「彼女(中島みゆき)の歌声を聴いて何を表現したいのか察し、 彼女の世界観を崩さずに自分の声で表現できるか、と考える。そのプレッシャーはすごかった」。ナオコのこの言葉から、彼女がどれほどのプレッシャーを感じていたかを想像するよりない。

イルカの歌う『なごり雪』や『あいつ』を伊勢のオリジナルで聴いて感じるのは、伊勢の曲作りの才能は認めるものの、歌い手としての伊勢に魅力を感じることはなかった。オリジナル曲を別のアーチストがカバーをし、当たる(人気が出る)理由は何だろうか?おそらくは楽曲に秘められた潜在的な何かを引き出してくれるのだろう。「〇〇のカバーは素晴らしい」というのはしばしばある。


研ナオコの中島みゆきやイルカの伊勢正三を挙げたが、他にもカバーヒットは沢山ある。杏里のカバーによる尾崎亜美の『オリビアを聴きながら』、森高千里カバーによる南沙織の『17歳』、荻野目洋子や井上陽水カバーによる西田佐知子の『コーヒールンバ』などが浮かぶが、目新しさ、美貌(?)、編曲の斬新さなどもカバーヒットの要因であろう。音楽の持つ多様性を我々に感じさせてくれる。

イルカの『風にのせて』は有名な曲ではなく、イルカファンならではの曲。YouTubeで検索したところ、別バージョンが作られていた。リズムセクションが控えられて、弦楽器を用いての多彩で凝ったアレンジで現代人の求める「癒し系表現」というのが適切かどうかはともかく、癒しを求めぬ自分にとって、新しいバージョンには共感できなかった。旧バージョンはSimple is the best.

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