長らく音楽についての記事を書かないでいた。プライベートでは毎日音楽に包まれて生活している。時に何時間も聴いたりするが、計ったわけではないので長いときで約4~5時間くらいではなかろうか。もし、この世に音楽というものがなかったと仮定したら、人はどうなるのだろうか? どうなる、こうなるといっても想像がつかない。が、音楽のもたらす効果が何かを言葉で説明するのも難しい。
ようするに説明することが難しいものは理屈じゃないからだろう。美味しい料理も同じように言葉では説明できない。「もし、音楽がなかったら…?」ということより、あって良かった。この世にあって良かったものは音楽以外に沢山あるが、どれも存在に感謝したい。ブログにはジャンル別の3つの「音楽」書庫があるが、どういう記事を書いたのかも記憶にないので久しぶりに覗いてみた。
クラシックの最初の記事を見るとモーツァルトの『フィガロの結婚』である。なぜこれを書いたのか動機は不明だが、その日その時に書きたかったものを書いたということ。洋楽の最初の記事は、「スサーナの時計」というタイトルで、ザ・ピーナッツや中尾・園・伊東ら三人娘についてあれこれ書いている。表題に縛られない自由さは最初からのもので、なにをどう書くことへのこだわりはない。
邦楽の最初の記事は中島みゆきの『時代』である。この曲のインパクトも鮮烈だった。スゴイ楽曲が素朴な少女によってつくられたことに驚きながら聴きいった。記事には八神純子が登場する。実はかつて音楽の書庫では多くの楽曲を紹介して記事を書いたがその数100余りが操作手順のミスですべて消えた。どんな曲を披露したか、覚えているようで覚えていない。
世の中で一番好きなものは、何をおいて音楽かも知れない。好物はたくさんあるから順位はつけられないが、音楽の持つ魔力には自分という人間の内面が相当に相当の影響をもたらせているのではないか。精神の高揚というくらいの理屈はつけられる。というところで、前書きはこれくらいにして、今この時点でもっとも記事にしたい楽曲を書こう。選んだ(選ばれた)のは高田真樹子の『屋根』。
この曲にもとてつもないインパクトを受けた。初めて耳にしたのは1974年のラジオ(FM東京)からだった。当時住んでいた横浜のアパートで夜の8時くらいだった。そこまで記憶しているくらいに衝撃的だったのだろう。高田真樹子は前年度のヤマハ主催の「ポピュラーソングコンテスト」において、『糸』という楽曲で入賞し、翌74年に『屋根』という曲でシングルデビューを果たす。
1973年といえばやはりヤマハ主催の「世界歌謡祭」で小坂明子が『あなた』で魏ランプリを獲った。『あなた』の衝撃も大きかったが、『屋根』と『あなた』にはどことなく類似点が感じられる。別の言葉でいうとパクった感という。『あなた』もポピュラーソングコンテスト(ポプコン)応募曲で、小坂が当時ファンだったガロに歌ってもらいたく、高校2年生のときに詞と曲を書き上げた。
ガロに合わせた三部合唱のハーモニーまでつけ、「歌手はガロ希望」と書いて応募したが、本番直前になってガロの予定がつかなくなり、急遽小坂自身が歌うことになった。しかしこの曲は歌詞の内容からいっても、小坂明子の歌唱の方が曲の雰囲気からいっても正解だ。小坂は本曲でレコードデビューし、発売から1ヵ月後にはオリコンシングルチャートで7週にわたり1位を獲得する。
『あなた』は岩崎宏美が歌手デビューのきっかけとなったオーディション番組『スター誕生!』の、テレビ予選と決戦大会で歌唱しただあった。さて、高田真樹子の『屋根』に戻す。高田を当時テレビで観たことはなく、「新宿ルイード」などのライブハウスが主な活動場所だったが、ナマ高田を観たことも歌声を聴いたこともない。インパクトのあった曲だがレコードも買わなかった。
というのも当時は社会人として仕事に明け暮れ、生活や思考の中心は仕事であった。オーディオ機材には凝っていたが、当時はエアチェックが大流行し、オープンリールデッキを2台所有するなど、録音機材をメインに頑張っていたが、アホなことをしていたとの感慨もある。何であれ人はその時代を生きるもの。♪めぐるめぐるよ時代はめぐる別れと出会いを繰り返し…
高田真樹子の『屋根』の歌詞からして、主人公は屋根に上がるのが好きだったようだ。屋根といえば、冨田靖子が初主演した映画『アイコ16歳』の主人公も屋根に上るのが好きで、浴衣を着て屋根に上がる場面が妙に明るく、またあぶなっかしくもあって印象に残っている。原作の堀田あけみは、愛知県立中村高校在学中の1981年に本作により、当時史上最年少の17歳で文藝賞を受賞している。
はやいもので堀田も冨田も50歳代。高田真樹子は66歳。彼女の声は印象深く、当時20歳にして声も表現もアダルトで、そこが彼女の魅力でもあった。彼女には『私の歌の心の世界』と題する秀逸な作品があり、八神純子がカバーしているが、彼女の声と歌唱力をもってしても、高田真樹子の世界観は表現できていない。詞を歌わされてしまっていてゆとりが感じられない。