何かと話題になる世界最高齢者のほとんどは女性である。過去、自分の知る限りにおいて長寿男性は泉重千代さんくらいか。泉さんは鹿児島県徳之島(大島郡伊仙町)出身で、1995年までギネスブック公認の人類の世界最長寿、2012年まで男性としての世界最長寿とされていた。マスコミで報道されるや有名人となり、存命中の泉邸には観光バスも訪れるなど、徳之島の観光資源になっていた。
ところが、2009年版以降のギネスブックは泉さんの年齢の信憑性の疑問を掲載するようになり、2012年版で泉さんの記録認定を完全に取り消した。専門家の間では泉さんの120歳という年齢には疑義があり、105歳が通説となっていた。その後、世界最長寿人物の記録はフランス人の女性ジャンヌ・カルマン(1875年 - 1997年)となり、彼女の122歳164日が人類最高齢となっている。
昨年7月22日に117歳で死去した神奈川県横浜市在住の都千代さん(1901年〈明治34年〉5月2日 - 2018年〈平成30年〉7月22日)は、存命中でのギネス認定世界最高齢者であったが、都千代さん亡きあとギネス社は、同じ日本人で福岡県福岡市在住の田中カ子(たなかかね)さん(116歳)を、「存命中の世界最高齢者」に公式認定した。田中さんは1903年(明治36年)1月2日生まれである。
1903年生まれといえば、昭和天皇の妃である香淳皇后、詩人の金子みすゞ、版画家の棟方志功、 映画監督小津安二郎らがいる。ピアニストのヴラジミール・ホロヴィッツ、野球選手でメジャーリーガーのルー・ゲーリッグらがいる。ところが、2018年8月にボリビアで118歳になる世界最高齢の女性が見つかり、大きな話題を呼んでいる。この女性の年齢はギネスブックにも記載されていなかった。
その理由は単にこの女性のことが知られていなかったからだが、その人の名は、フリア・フロレス・コルケといい、コルケさんは1900年10月26日にサカバ市のケチュア人の家庭に生まれた。コルケさんは人里離れた土地で家畜に囲まれ、たった一人で暮らしており、伝統的な民族楽器を演奏するのが趣味という。コルケさんは事実上、世界の女性最高齢者となったが、都千代さんよりも年上だった。
コルケさんは長寿の秘訣について健康的な食べ物と語る一方で、時にはケーキや清涼飲料水を摂取することもあると打ち明けている。コルケさんは生涯孤独で子どももいない。最高齢を掲げる長寿者には、必ずといって何を食べ、どういう生活をするか、などを聞くがこれは何の意味も裏付けもなく、ただ聞いているに過ぎない。たまたま大きな病気もなかったということだろう。
日本は世界一の長寿国と言われ、食にまつわる関連もいわれるているが、2014年の厚生労働省調査によると、日本女性の平均寿命は86.83歳と3年連続世界一。男性も80.50歳で世界3位の長寿を誇るが、男女の差は約6歳もある。女性の寿命が男性より長いのは世界的な傾向で、これには科学的な裏付けも指摘されている。寿命が長いといってもすべての病気で女性の方がかかりにくいわけではない。
日本人の死因トップ3である、「がん」、「心疾患(心筋梗塞や狭心症)」、「肺炎」はいずれも男性の方が患者数が多く、こうした病気にかかりにくいことが女性の寿命が長い一因といえるかも知れない。男性の方が多い病気の例として、痛風、胃がん、心筋梗塞、狭心症、肺炎、アルコール性肝炎、尿路結石症などがあり、女性は骨粗しょう症、アルツハイマー病、関節症、高脂血症などがある。
女性が長生きである大きな理由としては、以下の4つの点が挙げられる。①エネルギー消費量の違い、②ホルモン分泌の違い、③女性のメンタルの強さ、④生活習慣の違い。これらを詳細にいうなら、①は一般に男性の体は筋肉質で、女性の体には脂肪が多くついている。筋肉の多い男性の方が基礎代謝量は多く、基礎代謝量の少ない女性の方が省エネルギーで効率よく生きていけるということ。
②女性の体内で分泌される女性ホルモンのエストロゲンには高血圧を抑制し、コレステロール値を下げる働きがある。そのため女性は男性より心血管疾患が少ない。寿命に大きく関係すると言われるアディポネクチンも、女性の方が多く分泌される。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され、血流を良くして高血圧を防ぐほか、もろくなった血管を修復し動脈硬化を予防する働きがある。
③個人差もあろうが、一般に女性はコミュニケーション能力が高く、周囲の人と話すことで悩みやストレスなどを発散しやすい。反面男は一人で悩みやストレスを抱えることしばしばで、ストレスは万病の元と言われるように、明るく元気な毎日を過ごせるのも長寿の条件となる。④行動力の面から過酷な仕事は男が多く、不慮の事故も多い。また喫煙・飲酒などの生活習慣の違は歴然。
女の長生きは平均的・相対的なデータによる。女性が長寿志向で、世界最高齢に女性が多いからといって、だから何だ・どうしたといえなくもない。世界最高齢のある女性は、「長生きしていい事など何もない」といっているように、大事なのは楽しさ、喜び、生きがいである。晩年は人の一生でもっとも幸福なものになり得る。年をとることが、不足や損失の集積であると感じる必要はない。