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「国破れて山河あり」の貴乃花

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 国破れて山河在り
 城春にして草木深し
 時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
 烽火(ほうか)三月(さんげつ)に連なり 
 家書万金に抵(あた)る
 白頭掻けば更に短く
 渾(す)べて簪(しん)に勝(た)へざらんと欲す

李白と並び称される唐代の詩人杜甫は712年に出生し770年に没す。名門の家に生まれながら苦労して得た地方官僚の職をわずか4年で辞め、貧困の中で放浪生活を送った。社会や現実を凝視し、苦難を乗り越える意志を力強くうたう詩を遺した。なかでも有名なのが『春望』で、詩の意味を知る人も知らぬ人も忘れた人もいようがこんなことを言っている。

国都(長安)は破壊されてしまったが、山や川は(変わることなく)存在している。(荒れはてたこの)町にも(いつもと同じように)春がやってきて、草や木は深くおい茂っている。(乱れた)時世に心を痛め悲しんで、(いつもの春ならば楽しむはずの)花を眺めて涙をこぼし、(家族と)はなればなれになっていること恨めしく嘆いては、鳥の声にはっと胸をつかれるようだ。

(戦の)狼煙は幾月もの間ずっと続いてうちあげられて(戦乱はいつ終わるとも知れず)、家族からの手紙は万金に価するほど貴重なものに思われる。(悲しみのあまり)白髪頭をかきむしると、(髪の毛は心労のためにか)ますます短くなっていて、冠をとめるかんざしをさすことがまったくできなくなろうとしている」。括弧が多いが作者の沈黙部分は、むしろ言葉に先立つもの。

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詩や文学は言葉の合計にあらず。表現されたものを通して表現されなかったものを発見し創造するのが読み手。この詩は、現在の貴乃花の心境であろうとの自分の読みである。横綱として戦い、引退後は協会の役員として戦い、そんな彼が家庭に安らぎを求めるのは当然であり、家族とはそうあるべきだが、妻は去り、子どもとの関係も思わしくない状況に見える。

これまで疎遠・断絶状態といわれた母や兄への想いが湧き立つのは、今の貴乃花にとっては自然なこと。別れてしまえば妻は他人である。子どもには血肉の繋がりがあるとはいうも、種々の事情から親密とは程遠い親子もいる。母と兄への想いが語られるようになったことはある程度予測はされたが、余人には分からぬ貴乃花の苦悩と孤立感が見え隠れする。

テレビの番組のなかで、「いろいろな思いがあって、やっと家族のことをテレビでお話になるんですか?」と聞かれた貴乃花は、「引退したっていうのがいちばん大きいです。元の自分に帰れると言いますか。入門してから、弱いところを見せられないというのもあって…。ですがもう人生も46(歳)ですので、(略) 素直に、元に帰れるようにしようと…」と、告白に至った心境を明かす。

弟のエールに即座に反応した兄の花田虎上氏は自身のブログで、「ほんの三ヶ月前まで今後も会うことはないと言われていました」とした上で、弟が再会する意志を明かしたことには、「急変した現状に当惑しています。私は大人になって兄弟喧嘩をした覚えはありません。人との争いごとが苦手なのでこれまでの嵐のような状況にも受け身で過ごしてきました」と綴っている。

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疎遠理由は弟にあると取れる。さらに、「私の願いは母がずっと大切に思っている弟と笑顔で逢えることです。これはそう遠くない現実だと感じ嬉しく思っています。ただ、絡み合った糸を解くにはまだ時間がかかりそうです。それぞれに精進して、いつか心交わす。そんな人生の後半が送れるようにと願います」と思いを明かし、「いつか逢える日を楽しみに日々邁進して参ります」。

一朝一夕に雪解けとはいかない根の深さがある。「弟の事情で疎遠になった以上、手の平を返すにしろ、気持ちの準備もある」といったところだろう。根深い事情がある現状において、本当に和解したいのであれば、テレビで何かをいって母や兄の反応をみるではなく、真摯で謙虚な気持ちで、自らが直接兄・母に連絡すべきだが、彼の性格上それはできないのだろう。

テレビの娯楽番組で絶縁状態にある家族のシビアな問題を、バラエティ化して話題にする貴乃花は、何とも芸能人風情である。これが現代人的横綱資質というのか、横綱の末路も変わったものだ。和解は視聴者のためではなかろう。母・兄に対する、「長幼の序」というものあろうし、「テレビでおフザけ半分にいうことか!」。もし自分が貴乃花の兄なら許せないし完全無視。

母や兄に頑なな態度をとり続けた貴乃花。環境が変わった、状況が変わったというが、変わったのは貴乃花で母や兄には何の罪も非もない。すべては自分中心に動いているという驕りが貴乃花の高慢なところ。兄の花田氏が、「精進」という言葉を使ったように、今のままの貴乃花なら兄は絶縁解消する気にはなれないだろう。自己変革は貴乃花にこそ求められる。

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束の間の和解をしたところで、いつなんどきしっぺ返しを食わぬとも限らない。そういう事例は少なくないゆえに懸念を抱くのは当然だ。問題の多い人間は、謝罪はすれども喉元すぎた途端に熱さ忘れるようなのもいる。「弟には振り回されない!」兄である花田氏の気持ちが伝わってくるし、文面からも感じ取れる。弟の性格を誰より知る兄の心中は察せられる。

よくある夫婦の和解の事例。夫に愛想をつかせた妻が、頭を下げて謝罪する夫に半信半疑ながらも淡い期待を描く。(夫の謝罪はほんとうか?今後は心を入れ替えるというのはほんとうか?)。結局、その場しのぎの出まかせと判って愕然とする妻。信じてみるのはいいが、信じてバカをみることもある。追いつめられた人間は何でも言う、安易な和解はいいことにならない。

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