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五賢人 堀秀彦 ④

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『続・女を知る法』のあとがきに堀は以下のように書いている。「ちょうど一年前に出版した『女を知る法』は大変よく売れた。それは私の想像をはるかに超えていた。(中略)よくもまあこんなに、「女、女、女」と書いたものだと我ながら呆れたり感心したりしている。『もういい加減、女の悪口の種は尽きたでしょう!」と妻はいうが、私にはまだ物足りない。

私が物足りないと思う理由とは、おそらく私が女を科学的に知っていないからであろう。実際、私はまだ少しも女という人間について科学的に知っていない。科学的に知りもしないのに、いくらかでも女の悪口を言ったとしたら、これは大変よくないことだ。(中略)『女を知る法』がよく売れたのは、書題がよかったからだと、私に言ってくれた友人が多かった。

確かに友人のいう通りだったかも知れない。だが、もしそうだとすれば、内容はちっとも面白くないんだが、題がアトラクティヴであったから売れたものとすれば、今度の「続」は間違いなく売れないに違いない。前の本を買ってくれた読者はおそらく二度と騙されることを好まぬであろうから」。堀の特徴である三段論法を基調としたロジカル思考に吸い寄せられる。

堀の友人のいうように『女を知る法』という表題は、男にとってはどことなく刺激的であり、好奇心を掻き立てられる。「女を知りたい」男にとっては、是非とも手にして読んでみたい気持ちになろう。「書題がアトラクティブ」と堀自身がいうように、確かに人を惹きつけるタイトルではあるが、実質的な内容において今風な言い方をすれば、かなり盛った感は否めない。

続篇は『エミール』の一文で始まっているが、『女を知る法』の冒頭は、「謎」という表題で以下の書き出しである。「女は男にとって千古の謎である。いや、千古の謎のようでもあるし、謎でないようでもある。つまり、曖昧な謎である。千古の謎だと考えて女を愛した男は、やがて、千古の謎どころか、すぐにも底の見え透いた人間として女を見出すかも知れない」。

回りくどい文章である。が、いわんとするのは、「女を偶像化するな」であろう。明らかに男向きに書かれた書籍で、購買者のほとんどが男であろう。女を知りたいのは男であり、女性が「女を知る法」など買う必要はないが、購買動機を想像するに、男の人が女をどう捉えているかという興味だろう。そのためにお金をはたくだろうか?そこはなんとも言い難い。

本の定価は170円だが地方売価180円とある。地方売価?かつて書籍の注文というのは、前金制、買い切注文制が主体の取引であったが、返品を認める委託販売制を導入したことで、全国均一運賃込み統一価格となったが、それ以前は東京と地方に価格差があった。ちなみに昭和25年の大学初任給は、公務員で4223円、銭湯15円、牛乳15円、ラーメン30円である。

となると書籍1冊180円はラーメンの6杯分となり、現在のラーメンが700円とするなら、本一冊は4200円にもなる。いかに書籍が高価であったかが分かろう。ゆえに貧乏人の文化度は低かった。当時は一般家庭に書棚はなく、本もめぼしく、向学心高き者は図書館に通い詰めた。堀のいうように、本が売れたことは、思いのほか良い暮らしができたことになる。

『女を知る法』の目次を見ると、堀の妻がいうような女の悪口本に感じられるかも知れない。こんな表題が並ぶ。「謎」、「夢見る女」、「女の顔」、「すねる・ふくれる」、「女はなぜ嘘をつくか」、「スタイル・ザ・ファースト」、「性的情熱」、「女は強し」、「女の涙」、「虚栄心」、「女の強情」、「女の嫉妬」、「女の友情と性感」、「流行を追う女」、「セックス・パラサイティズム」、「母」など…

「セックス・パラサイティズム」とは性的寄生者。邦題は意味が強まるため洋題にしたのだろう。当時の社会情勢に鑑みて、「とにかく女というものは、男よりも一層強く何か自分以外のものに頼ることなしには生きて行けぬのである。何かに頼らずして生きて行けないという状態、これを我々はパラサイティズム(寄生状態)と呼ぶことができる」という内容である。

「女の涙」については、「女の涙は怖ろしい。女が涙というものを流さなかったとしたら、クレオパトラの鼻どころか、人間の歴史は一変していたであろう。女が泣き出すと男は手がつけられなくなる」と手厳しい。女の涙に情を寄せるのは女を知らぬ男と自分はここに書いた。涙が女の武器である以上、怯むのは敗戦となるが、それでも男は女の涙を捨て置けない。

「女の秘密を教えてあげる」と、ある女が付き合う前に自分に言った以下の言葉である。「女はね、ここでは泣いた方がいいと思ったら意識しないでも自然に涙が出ちゃうの。すごいでしょう?」。聞いてびっくり「目から鱗」だった。女は情緒でできている。しかるに男は何でできているのか?どうやらカエルとカタツムリと仔犬のシッポでできているらしい。


「演技性人格症」というのは、女性に特化した病(?)であろう。男にも演技派はいるが、女性の演技力には太刀打ちできない。肩肘張らずに楽に生きるを好む自分は、几帳面そうにみえて実はずぼら性向。確かに女性は男にとって謎である。自分もその点は幾度もここに書いている。「女は千古の謎」と堀はいうが、自分にいわせると、「女は万古の謎」である。

千古とは千年の古来、大昔といういう意味だが、万古はちと意味が違う。堀は、千古の謎を解く手がかりとして以下述べている。「謎を解くのには手がかりがいる。一つの手がかりさえ見つけられれば、後は訳なく解けるのが謎であるが、女の謎を解く手がかりは何か。幾つかある。虚栄心、嫉妬心、劣等感、感覚、肉体のある器官(子宮のこと?)などであろう。

諸君はどれでもいい、その一つの謎を解く鍵を掴み給え。そうすれば女の謎は解けるだろう」。「女は子宮でものを考える」という言葉を耳にした時、意味も分からぬのにさも分かったような気分でいた。この言い方に怒る女性は、「"女は理性がないから子宮でものを考えるのだ"というような考え方自体、"それって、睾丸で考えたのか?"といいたいのね」。

上品ではないが、goodな切り返しだ。昔の学者が女性の情緒障害をヒステリーとしたのは、ギリシャ語の「子宮」を意味したのが語源だが、「子宮感覚」という言葉を女性自らが使うこともある。頭をつかっても大脳がむにょむにょ動く感覚はないが、子宮がムズムズ感覚は女性特有のもの。この(性的)感覚が女をたらしめるものであるとは女性からの伝聞である。

自分も女という生き物の万古の謎を解明したく漁ったが、いかほど解明できたか謎である。作家の黒岩重吾は、「千人とやっても女は分からない」といった。女を分かった男はおそらくいない。「お前は何で不細工な女が好きなんだ?」とよく言われた。いろんな風に答えたが面倒くさくなって、「灯りを消せよ!そしたら女はみんな同じ」などと言って煙に巻いた。

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