元横綱日馬富士に暴行を受けた貴ノ岩が、逆に“暴行疑惑”で昨年12月に東京地裁へ証人として出廷していたことが判明。引退した貴乃花部屋の元幕下貴斗志が日本相撲協会を訴えている民事訴訟で、3人の元力士が貴乃花部屋で行われていた暴力の実態などを証言。貴乃花親方と花田景子夫人も貴ノ岩と同日に証人尋問で出廷した。訴訟は18年2月23日、和解が成立した。
貴斗志将吏は埼玉県越谷市出身で、小学5年生で双子の兄(将匡)とともに相撲を始める。その後、兄弟で茨城県の東洋大牛久高校に進学。2008年のインターハイで同校を団体の部初優勝に導く。高校卒業に合わせて父親の勧めで貴乃花部屋に入門。翌2009年1月場所に貴斗志の四股名で貴月芳、貴ノ岩とともに初土俵を踏む。同期生には他に宝富士、皇風、徳勝龍、東龍らがいる。
貴斗志は2014年11月場所は自己最高位の西幕下3枚目に昇り十両昇進も射程圏内に入ったが、この場所が始まる直前に所属する貴乃花部屋から突如自身の名前が消え、場所後の11月26日に正式に引退が発表された。しかし、この引退は自身の同意もなく、師匠の貴乃花親方の一方的なものとして、2014年12月に日本相撲協会に対し地位確認などを求める訴訟を起こした。
貴斗志裁判の一審では原告側が敗訴となり、東京高裁において控訴審が行われたが、控訴審の際に原告側から提出された貴乃花部屋出身の元力士A氏の陳述書によると、A氏は貴乃花親方の付け人をしていた現役時代を振り返り、部屋内でのいくつかの暴力沙汰について証言している。その中で、「師匠(貴乃花親方)からひどい暴行を受けたこともありました」と語っている。
陳述書によると、事件があったのは13年11月の九州場所中のこと。貴乃花親方が急遽、審判部長の代理をすることになり、A氏は紋付き袴のアイロンがけを命じられた。ちゃんこの準備などの仕事もあり忙しかったA氏は、本来の仕事である衣類の洗濯を、同期の力士に依頼。ところが翌日、A氏は貴乃花親方から呼び出された。その時のやり取りは以下のようである。
「ちゃんこの準備をしていると師匠から呼び出され、洗濯ものがない、着るものがない、と言われました。調べてみると頼んだ同期の力士が洗濯を忘れてしまい、洗濯前の衣類が下の階に置いてありました。私がそのことを師匠に報告し謝ると、師匠は私の胸ぐらをつかみ、まず平手で10発くらい往復ビンタし、その後、こぶしで私の顔面を10発以上殴りました。
私の口の中は切れ、血しぶきが飛び、師匠の部屋の壁と下着姿の師匠のTシャツに血がついたのを、私はみました」。A氏はさらに、貴乃花親方が指輪をつけた拳で他の力士の顔を殴り、その力士が出血したこともあった、とも証言している。A氏は元日馬富士の暴行事件では被害者となった貴ノ岩から暴行を受けたと証言している。これらの証言が本当ならば穏やかではない。
これについて貴乃花部屋の代理人の弁護士は、「いずれも事実無根の話です。このような事実無根の話を報道されるようなことがないよう、慎重にご対応されることを要望いたします」と、貴乃花親方と貴ノ岩が暴力を振るったという裁判での証言のすべてを強く否定した。しかし、貴乃花部屋の元力士のB氏はこう証言する。「師匠はアップダウンの激しい人。
ニコニコしているのはアップの時、ダウンの時は部屋の力士、景子夫人にしか見せない別の顔がある。協会で何か言われると嫌な顔をして帰ってくる。貴乃花部屋では、断髪式をやってもらった力士って少ないんですよ。私もしていない。そういうことが多いこともあり、部屋を辞めた力士は引退後、あまり相撲界のことを話したがらないんです」。確かに誰にも裏の顔はあろう。
問題は裏の顔そのことではなく、暴力を引き起こす人間かどうかであって、火のないところに煙は立たないということは往々にしてある。平成の大横綱として騒がれ、兄弟横綱として相撲界の人気に貢献した貴乃花と兄の花田氏の絶縁状態もそうだが、人気横綱貴乃花の足元が少しづつ崩壊しつつあるのは、日馬富士の貴ノ岩暴力事件が、ブーメランになった辺りからだ。
当時貴乃花親方は協会の理事であった。「理事とはいわずもがな会社で言うところの取締役である。取締役には、「忠実義務」というのがあって、「忠実義務」というのは、「会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならない義務」。この定義に照らせば貴乃花親方の違反は明らか。「相撲協会の利益を犠牲にして自己(貴乃花)の利益を図って」行動と解釈されよう。
「忠実義務」違反は、懲戒もしくは理事解任に相当するが、貴乃花親方の理事降格は想定内で、本人も覚悟の上だったろう。貴ノ岩が暴行を受けたとされる件についても、理事として相撲界全体を司る立場を度外視してこう述べた。「何としても弟子を守るのが私の務め…」。貴乃花親方は弟子こそ我が命のような言い方だが、協会役員という立場・認識が希薄なのは明らか。
貴ノ岩の暴力事件に対する貴乃花の対応があまりに私憤的、独断的であり、少なくとも協会理事という立場での穏便な解決法をなぜ模索しなかったのか?いきなり被害届を警察に出すのが彼流の改革なのか?彼は役員である。内々の問題を話し合いで解決しなかったのが貴乃花の組織論的失敗である。組織の体質を変えようと組織に喧嘩を売っても逆に組織を敵に回すだけ。
当時被害者と思われていた貴乃花親方が、加害者になるという逆転現象が起こった。この一件で親方は精神的に大きなダメージを受けたことになる。自身に投げられた石を投げ返すのはいいが、裏で身内がコッソリ石を投げていたとあってはマンガである。貴乃花親方があれほど拳を高く上げのは、組織改革の旗手としての自負だろうが、やってることは子どもの喧嘩だ。
カッコよさを演じた者は、少しでもボロが出たり綻びが見えると、カッコよさは数倍のカッコ悪さとなって戻る。言葉は魔法のようなもので臆病者でも口では勇者になれる。できもしないことでも言葉の実行は可能だ。言葉に溺れず、出来ないことさも出来るかの如く公言しないよう留意している。人間は言葉の動物、誰もが言行不一致であり、それに甘えないことだ。
言葉のない動物は言行一致も不一致もない。行動が自らの意思である故に分かりやすい。人間は自分の思いや気持ちを相手に伝えがたいために言葉を発明した。それがいつしか自分を偽るために言葉を駆使するようになった。なぜだろうか?答えは我が身に問えばよい。真実だけでは生きられないのが人間社会。理由はいたって簡単、人間は真実より利害を優先・重視する。