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成人息子を「ちゃん」と呼ぶ母 ②

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親が子どもを可愛がろうとしたり、大事にしてくれるのを子どもは信頼という意識で感じるが、それも自我が芽生えてくるころになると、指示や命令されることを嫌がるようになる。「くたびれる」は漢字で、「草臥れる」と書くが、『詩経』にある、「疲れて草に臥す」を慣用したもの。息子の大学受験で、「草臥れた」という母親がいた。草臥れるのは息子のはずだろ?

なのに母親が草臥れた理由は、息子を常時督戦していたからだ。息子がその大学に入ることで、息子の幸せが保障されるかの錯覚はどの親も同じだろうが、それとは別の親自身の中にある潜在意識的な心(威張りたい・見栄を張りたい)が満足を覚えることになる。頭もよくなければ勉強嫌いな子どもを、塾に通わせて無理をしてでも大学に行かせることから始まっている。

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全ては子どもの将来のためと、子どもの実力以上のものを口実にして、親が一生懸命になってしまう。20歳少し前の子どもを学校に入れるのに親が一生懸命になるなんて、本当はおかしい事であるが、誰もおかしいなどと思わない。「〇〇ちゃんもがんばってね。ママも頑張るから…」などと、受験の苦しみを共有しようとする母ですら、角度を変えてみればおかしいことなのだ。

ママが何を頑張るというのか?せっせと食事や栄養の心配や、おやつには何がいいかなどの心配なのか?誰もおかしいと思わないのは、誰にも同じ心があるからだろう。自分のように、「ない」人間のみがおかしいと感じる。それほど骨を折って入学しても、元来勉強嫌いな子どもが授業に耐えられるだろうか?あるいは、「もっと勉強しようという意識を持つだろうか?

そんなことは、先のことは、誰も考えない。子どもも親も考えない。すべては入学することだ先決なのだからと、疑問に思わないのは、誰もが同じ心を共有しているからだ。人間に限らず、すべての動物は成長してある年齢に達すると、独立の要求が起こる。まずは6歳くらいでそういう芽生えがあるが、早い子なら4~5歳から始まる。そうなると親がいつも傍についてくることに恥辱を感じるようになる。

ピアニストの辻井信行は目が不自由だが、いつも母親が寄り添って支え、励まし、世話をしていた。全盲者への介助は当然であり、過保護とは誰も思わない。その辻井氏のドキュメントがテレビで放送された。「伸行は、私がずっと傍にいなければ生きていけないのか。彼は私の顔も一生見ることができないのか」と思うと、泣き崩れたこともあったという母のいつ子さん。


伸行氏は20歳頃から、母親から距離を置いているのが映像でも捉えられるようになった。本人にその辺りの事を尋ねるとハッキリした口調で、「だんだんと親離れした方がいいのかなと思ってきました」。この言葉には驚いた。「親離れ」という言葉を彼はどこで知ったのだろう。そういう点字の本を読んだとも思えない。ましてや彼にとって親離れとは、介助者を離すということになる。

乳幼児期から彼にとってかけがえのない介助者である母を、なぜ離そうとするのか、普通一般の親離れとはまさに事情が違うではないか。それでも彼は知識としてではなく、意識として親離れを望み、実行しようとしているのを見て、これはもう本能のなせるワザだと感じた。全盲者を特別視してはならない。彼らも自立をしたいのだと…。心にわだかまるものを言葉にしたのだと…

伸行氏の絶縁宣言を聴いていた母は、「独り立ちしてもらいますかね」と言って笑ったが、言葉に寂しさは隠せていなかった。彼はどうして母を離そうとしたのか?何が不満だったのか?他人の介助者を雇うより、世話ということなら誰より母に勝る者はいない。これは単に外野の考えである。それくらいに彼が自ら毅然と親離れを望んでいるのが、やはり奇異に思えた。

何を細々小言をいったのか、無用な指図をしたのか、その辺はまるで分からないが、貴重な介助者を拒む伸行氏の心情は理解できなかった。が、それが正真正銘本能から出ることなら、人間も捨てたものではないなと感じもした。全盲者が絶対的に必要な介助者を母ではダメだと烙印を押された母のいつ子さんが、もっともショックだったのではないだろうか。

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子どものころは、彼は母親をママと呼んでいたが、いつごろからママを止めたのだろうか。子どもが幼児期頃に母を、「ママ」と呼ぶのはいいが、いつしか、「ママ」を返上する時はくる。同じように母親もいつまでも、「〇〇ちゃん」は止めるべきである。ママと呼びたくない思いが成長であるなら、「ちゃん」付けを変えたくない母は、成長していないことになる。

これはおかしいだろう。を返上すべきである。子どもが成長したなら、同じように母親も成長すべきである。子どもが、「ママ」を止めたと同時に、ママは自分を、「ママ」と呼ぶのは止めた方がよかろう。同時に、「パパ」の呼び方も変えた方がとかろう。子どもにとって「ママ」、「パパ」という呼称が存在しなくなったなら、親は気を効かせて呼称を返上すべきである。

子どもに対し、「ママでちゅよ~、ベロベロバー」はこの時点で終わったのだと。子どもがある時期から何でもカンでも自分でやろうとするのは自立という主張である。子どもを見くびっている親は信じないかもしれないが、子どもというのは結構早い時期に親の欠点をちゃんと見抜いている。つまり、ここでゴネて大声だせば、必ず買ってくれる…、これもそういうことだ。

ここで大声張り上げゴネたら、放って行かれるというのを見抜いている子はそれをしない。どちらも利口な子どもである。ただし、欠点を子どもに見抜かれていない親でなければ、真っ当な教育はできない。舐められ、見下され、腹の底を読まれていて、何の躾ができようか。自分も小学生で母を見切った以降、母の言うことなど聞く気も起らず、それほどバカに感じられた。

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これらは生き物としての反抗である。丁寧にいえば、自然の生きものとしての独立の要求である。子どもはオギャーと生まれたときから、独立に向かって一歩一歩進んでいるのだ。「自分で出来る!」というのに、危ないからやってはいけないという親は多い。子ども自身がリスクに挑戦しようとしているにも関わらず、親が自身のリスクを怖がって、させないようにする。

いちいち、あれこれ指図をする親が良くないのは、その子はいちいち他人の視線を伺う子になる。「三つ子の魂百まで」というのはそういうことの例え。よい意味での放任が、子どもに生きる知恵をつけることになる。依存しない悦びもあれば、依存が楽でいいという考えにもなる。この辺りも明確に決めておかないと、躾や教育というのはまさにノンポリシーとなろう。

どういう子どもにしたいのか、なって欲しいのか、に殉じた教育があるということだ。ある親はいう。「子どもは親の愛情で守ってやるべきです」。立派な意見である。立派に聞こえるが、言葉は言葉でしかなく、こういう事をいう親は、案外と偏った過保護志向が多いのが、自分の経験則である。愛情とは守ることだけではないが、過保護と愛情を混同している。

立派なお母さんとは、単に弁の立つ人、もしくはキチンとした論理や理念に精通する人、言行不一致な人、リスク回避を愛情と信じる人、我が子を宝物のように感じている人など、様々である。「愛情」という言葉の要素や含みが多いのを知る親は、簡単に愛情などとは言えないだろう。それを簡単に口に出すのは羞恥であり、親が子に愛情をかけるとはとても難しい。

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子の自立心、独立心を喜べないのは父親よりも母親に多いが、子どもが育って独立しようとすることを、見捨てられると感じるからだ。親に冷淡な子どもに育ったなら、それが育てる側から言えば成功である。「教育の目的は子の自立にある」を知る親と、知らぬ親はここで区別される。いつまでも後を振り返って親を大事にしたりなどの習慣は生き物にはないのである。

それでも自分の親を大切にするのは決して悪い事ではないが、そこで大事なことは、自分の子が親を足蹴りにし、粗末に扱おうと文句も言わず、嘆かぬことだ。つまり、子どもがそうである原因の大半は、親自らにあるからであろう。我が子に老後を大事にしてもらおうとの目論見で子を育てている親もいるから驚く。恥ずかしげもなく公言する思慮のなさ。

ようするに、人間の意識的な教育の結果というのは、自然の摂理に逸脱していることからして、良くならないことが多い。親の欲目や子を宛てにし過ぎることが、子どもを束縛しているという時点で不自然な教育となり、だから裏切られるなどと感じてしまう。不自然を認識できない親の無知だろう。自然の独立の要求を無理に抑えつけていることが親としての間違いだと。

親の愛情で守られた子どもは、そこから飛び出せない不具者かもしれない。「娘がなかなか腰を上げて嫁にいかないんだよ」といいながら内心は喜ぶ父親がいる。親子の諍いで結構多いのが、子どもの独立要求を親が阻止しようとする。あまりに独立の要求を抑えると反抗のエネルギーが増長され、喧嘩だけでは収まらなくなる。これが巷にある親子の殺し合いだろう。


事情や経緯はいろいろあるが、根本は自身の妨げになるものをなくしたいに尽きる。破壊の要求にまで達していることを双方が気づかぬことが悲劇であり、行為なされた後では遅すぎる。人間は過ちを犯すものだ、タカをくくってはいけない。親子喧嘩にしろ、夫婦喧嘩にしろ、皿や食器をガチャンと割るのは粗暴であるが、それでエネルギーが発散できるうちは救いである。


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