Quantcast
Channel: 死ぬまで生きよう!
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1448

「人生いろいろ」

$
0
0


島倉千代子の、「人生いろいろ」という歌が流行ったのは30年前でだった。1987年4月21日にシングルリリースされた。お千代さんは4年前に亡くなったが、当時彼女がテレビにでると必ずこの歌を歌っていた。この曲は演歌というより8ビートのアップテンポが演歌嫌いな若い世代にも違和感もなく、ノリの良さも相俟って大ヒットし、お千代さんのの代表曲となっている。

本曲が話題になり始めたのは1987年10月13日の、「第20回日本作詩大賞」の受賞がきっかけである。同年には、「第29回日本レコード大賞」で作詞賞を受賞し、さらにはフジテレビ『オレたちひょうきん族』の、「ひょうきんベストテン」コーナーで、山田邦子が島倉のものまねで本曲を披露したことで、徐々にオリコンチャートや有線放送チャートを上昇し始めた。

楽曲の大ヒットというのはは、こういった複合的な要因があるのだろう。作曲のハマクラ(浜口庫之助)のビートもいいが、中山大三郎の詞が印象的である。レコ大作詞賞をとるくらいである。「100万枚記念パーティー」会場には、山田邦子とコロッケが本曲ヒットの功労者(?)として招待され、山田は島倉本人の目の前で物真似による、『人生いろいろ』を熱唱した。

場を和ませる山田の芸に対し島倉は、「山田邦子さんとコロッケさんのお陰で、『人生いろいろ』が若い方にも親しまれるようになり、光栄です」と2人を賞賛するも、コロッケに対しては、「コロッケさんは酷いと思う時もありますが…」と、冗談交じりに述べていたが、実はその裏ではコロッケ本人に対し、「もっとふざけてやっていいのよ」などと話していたという。

イメージ 1

作詞の中山は長らくテレビのコメンテーターとして茶の間に登場していたので顔なじみであろうが、ハマクラはあまりテレビに顔を出さなかった。『人生いろいろ』のタイトルを引用したのが、後の小泉純一郎であった。2004年(平成16年)、当時内閣総理大臣の小泉純一郎が衆議院決算行政監視委員会で、「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろ」と答弁した。

まさに変人総理の異名を持つ彼らしい。政治家御用達と言わんばかりの、取って付けた難しい言葉で国民を煙にまくことをせず、国民目線のやさしく、時には冗談ともとれる言い回しで野党党首を翻弄させる小泉は、国民に多大な人気があった。党首討論における当時の岡田民主党党首に対しては掛け合い漫才が如くはぐらかし、岡田のうんざりした顔が印象的だった。

総理でありながら、人を食ったような真摯な政治家らしからぬ発言には批判も多かった。靖国神社参拝を「心の問題だ」などと本質からズラした発言に怒る国民の以下の投書が新聞に掲載された。「小泉首相は靖国参拝について、『心の問題に他人が干渉すべきでない』と、中・韓両国政府の反発に不快感を示したといいます。私はこの発言に唖然としました。

東京都は、卒業式の君が代斉唱に起立しなかった教師を処分しました。首相は、『心の問題を強制してはいけない』と、石原都知事を諫めたことが一度でもあったでしょうか。また首相は、有事のときに国民に協力義務を課す、『国民保護法』を作りました。戦争に協力したくない良心から、私有地の提供や食品の保管命令を拒否という人たちを罰する法律です。

イメージ 2

首相の発言は、あまりに自己中心的です。仮に『心の問題』発言が正しいとするならば、いま、『内心の自由』をないがしろにされている多くの人々がいることに気付くべきです」。投稿者はあまりの正論、あまりに核心的である。「心の問題に干渉するな」と言うなら、東京都の先生たちの心も救済すべきである。後に小泉は化けの皮が剥がれ、ペテン総理となっている。

「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろ」というのはその通りである。一切をまとめて、「人間もいろいろ」ということになる。人間は始まった時からいろいろであったろう。野坂昭如がCMで、ギョ・ギョ・ギョエテかシルレルか、と歌ったのはゲーテとシラーのことだが、ゲ・ゲ、ゲーテとしなかったのは、「ゲゲゲの鬼太郎」調になるのを避けたからか?

シラーをシルレルと読むのは太宰治の、『走れメロス』にも出てくるシラーのドイツ読みで、そのシラーは、「人間を偉大にしたり、卑小にしたりするのは、その人の志である」と述べている。勉強ばかりで遊ばない子どもは間違いなく鈍くなる。年がら年中仕事ばかりしている大人も、持っている才能を十分に発揮できなくなる。いかに気分転換が大事であるか。

熱中するのは悪いことではないが、自制という意味で自分も週に一度はブログから離れるよう心掛けている。「鈍い」、「鈍くなる」というのは、応用や創造などの能力が失われることで、仕事や環境に追い回されていては、仕事も環境も自分の考え通りに使いこなせる人間にはなれないのでは?以前、「ブログで小銭を稼いでいるんでしょう?」とコメントがあった。

イメージ 3

熱心にやるから金儲け半分と思ったのだろうが、仕事でないからやれるという発想がない。スキで自由にやることを仕事にした途端、景色が変わって負担になったりする。自分は自分を良く知っているからわかるが、遊びに金銭がからまるとつまらなくなる。趣味で歌が好きでも業にすれば嫌なこともでて来ようし、仕事にすれば純粋な気持ちではなくなってしまう。

趣味における楽しさ、自由さは、小銭を得ることなど比べ物にならないだろう。他人はどうであっても自分はそうである。仕事は強制が入るからやれる部分もあるが、遊びは食う糧ではないゆえに自由である。「志」とは聞こえがいいが、勤勉・熱心のことだけではなく、自由奔放も志である。自分は野坂昭如という人間が好きだった。彼らは焼け跡世代と呼ばれた。

小田実、大島渚、石原慎太郎ら同世代はみな饒舌だが、野坂は朴訥ゆえに言葉に重みがあった。田原総一郎は長い野坂との付き合いから以下の様に評している。「野坂さんは、自分が完全に時代の落ちこぼれになること、つまり劣等性になることで、その変わりに何でも言うぞ、何でもやるぞ、という人だった。それが彼の魅力だった」と、上手い表現をしている。

変にインテリぶらない、かしこまらない、自分に何がしか垣根を作らない、保身に回らない、そういった境界線のなさが野坂に自由なスタンスを与えた。物怖じすることのない怖れ知らずの野坂は真の自由人であった。大親友である大島渚のパーティーでは彼の顎を力任せに殴った。あれは本気のアッパーカットであり、これ見よがしのパフォーマンスではなかった。


やられた大島も本気で殴り返す。大島の怒りの程は手にしたブロンズ像で、野坂の脳天を殴り返すのだ。まさに生気を失った子どもの喧嘩であるが、ゆえに彼らは純粋である。「あきらめ根性」、「みてくれ根性」に支配されない、純粋なバカをやれる飾り気の無さが彼らの特質である。その場、その場の思いや情念を素直に表出できる、それが真の友人(友情)であろう。

友人にはこれを言ってはいけない、こういうことをしてはならない、そういうものが二者間をぎくしゃくさせる。こんにちの友人関係や友情が如何に欺瞞に満ちたものであるか、裸でぶつかりあっていないからである。適度に距離を置いた折り目正しい関係は、実は嘘だらけであろう。何故にこうなったか…?人間の脆弱さではないか?傷つきやすい自己を隠し持っている。

焼け跡世代は、何もないところから自分を含めた一切をマニュアルなしに作っていった世代である。焼け跡世代の強さ、逞しさを望むなら、もう一度戦争を始めて国を焦土化すべきである。坂口安吾は「戦争論」で、「戦争は人類に多くの利益をもたらせてくれた」と述べた。石原慎太郎も都知事時代、「東日本大震災」に天罰発言をしたことで顰蹙を買った。

石原はあの時、安吾の「戦争論」を引用しているなと感じた。平和に惰眠を貪り、我欲に邁進する民を諫めたつもりだろうが、言葉の表層のみとらえられた。被害にあった少女が、「これまでどれだけ幸せであったのか…、よくわかりました」と述べているのを聞き、我々は返す言葉につまされた。子どもだから言えた言葉であるが、石原より説得力に満ちていた。

あの時、自分には次の言葉が去来した。「私たちは好敵手からいたわってもらいたいとは思わない。そして私たちが心底愛している人たちからも、いたわってもらいたくはない」。この言葉には人間の強さがある。大切なことは慰めや同情ではなく、人間の奥底から湧き上がる意志である。我々が同胞に何ができるか?それを「善」なら、「善」は「善意志」から生まれる。

「善」とはそういうものだ。人から悲愴な内輪話を聞かされることがある。聞けば聞いたで気になり心配になる。だからといって、言葉をかける以外に何もできない己の無力さを知るにつけ、言葉をかける事すら躊躇われる。「どうなりましたか?」と聞かずとも、どうにかなっているであろう。それを知ろうとする自己満足は、何ができるかには到底及ばない。

相手の不幸に自己満足でいていいのか?自身のことならいざ知らず、他人の不幸に立ち入ろうとする自己満足は、優しさの押し売りの臭いがする。我々はときどき、親切の押し売りをするが、こういうときにこそ「善」の意味を思考すべきだろう。「善」とは、「純」であらねばならない。そして、我々が本当に知るべきことは、人が人にかかわる限界である。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1448

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>