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ハゲがカッコいい時代 ②

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当時のアデランス宣伝企画室課長は、『日経ビジネス』にCMの狙いを以下のように説明する。「かつらをつけてから家庭が明るくなったというようなイメージを与え、奥さんや子どもに好感を持たせるよう努力するところを描いている」。斯くも斬新なCM効果もあって、アデランスはアートネイチャーに追いつくや、一気に突き放して業界のトップに躍り出る。

商品価格の半分超を広告費として顧客が負担することで急成長したアデランスだが、「かつらは高い」という噂はどんどん広がっていった。内緒で購入し、内緒で装着するから価値があり、数十万円のかつらを使っていることを自慢する者などいない。同僚がある日ふさふさになり、かつらをつけたらしい噂が立ったが、「値段はいくら?」と聞く者などいない。

縁なき人には気にもならないが、少しばかり縁が近づいてきた人は気にもなろう価格であり、電話で値段を聞こうにも、「絶対に値段はいわない」というマニュアルが徹底されていた。実際「かつら」は、世の人々が想像している以上に高額であるにも関わらず、価格は伏せられていた。が、ネット時代に入り、相場が分かって来たことも顧客の伸びに影響した。

価格を伏せ、無料訪問相談もしくは、社内に設けた相談室に足を踏み入れたら最後、あれよあれよという間に契約させられるという、人の弱みに付け込んだコンプレックス産業にありがちな強引な営業姿勢であった。さらにかつら購入後には自毛の調髪が必要となり、定期調髪のための専用個室ブースを設けているが、そこでは盛んに別商品の売り込みがある。

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販売はかなり強引で、そうした非難がネットのかつら苦情サイトに書き込まれたり、消費者センターへの苦情の常連は、かつら、エステ、美容整形などのコンプレックス産業が占めた。調髪に行くたびに商品を勧められる顧客もたまらないが、一般の理容室に行けない弱みもあってか、嫌でも行かなければならない。それについて告発本には以下の記述がある。

アデランスには、『スペア・アタック』という社内用語がある。これは、調髪に来た顧客にカツラのスペアを売りつけることを言うが、そのやり方が実にあくどい。(略)「購入するまで顧客を帰すな!」を合言葉に、カツラを外して点検の名目で、しつこく購入するように責められ、顧客は追い詰められる。悪夢の時間から解放されるために購入するしかない。

以下は大阪在のK氏(59歳)の投書。「接客態度に申し上げたい。執拗にスペアを勧めるので散髪がおろそかになるばかりか、予定した時間もオーバーするし、家庭の経済問題にも影響する。余りのしつこさに不快を表明しても怯まない。散髪に行く度に説教めいた勧誘を受けるにいたってはうんざり。弊社に通うことが苦痛となり、他店に代わろうと思っている。」

アデランスは膨大な宣伝広告費と、顧客の弱みに付け込んだ押し付け商法で、業績を伸ばしてきたが、「仏の顔も三度」ではないが、耐えに耐えた顧客も、ついには足を遠ざけることになる。社内データによると、昭和57年12月現在でのアデランス使用者は、会社側の発表で約25万人だが、定期調髪来店者を常用顧客とすると、わずか17400人程度となっている。

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全顧客数に対する常用顧客の割合は7%であることから、購入後に使用しない顧客がいかに多いかを示している。使わない理由を聞いたことがあるが、自分でかつらを洗って整髪するのが大変難しいらしい。洗って乾かして頭にのっけて、ドライヤーでセットしても、歪んだりして不自然になったり、かつらは所詮はかつら、バレないようにするのは大変という。

アデランスの長引く業績低迷は、「驕れるもの久しからず」的な要素もある。本年4月、2016年2月期決算発表の席で津村佳宏専務は業績悪化の理由をこう述べた。「これまでの高価格帯のかつらを売るビジネスが崩れ始めた」(日経産業新聞 2016年5月16日)。実は津村氏とは旧知の関係にあり、同じ広島人で自宅に来たこともある。時期社長候補筆頭の彼の苦悩は深刻だ。

津村氏は5月26日付で副社長兼COOに昇進したが、10月14日の記者会見で、投資ファンドのインテグラルの子会社を通じ、経営陣による自社買収(MBO)を実施すると発表した。業績が悪化しているために株式上場を廃止し、中長期的に経営基盤を立て直す必要があるとの判断である。インテグラルは中堅航空会社のスカイマークなどに投資して企業を再建した実績がある。

アデランスは事実上インテグラル傘下入りで支援を受けることになり、MBO成立後は、創業者の根本信男会長兼社長と津村佳宏副社長の出資比率が合計で50.1%になる。残りはインテグラル側が保有する。会見席上津村氏は、「今回の決定は短期的な利益を求める投資家に迷惑を掛けないため」と説明したが、アデランスは来年2月中旬をめどに上場廃止となる。

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本年3月、中華の陳建一の店として名を馳せた、「スーツォンレストラン陳(旧名四川飯店)」の閉店に驚いた。以下は、『帝国ニュース(3/30)』から。「消費者の低価格志向や、同業他店との競合で収益性が悪化しており、厳しい資金繰りが続いていた。メニューの見直しや内部合理化を進めていたが奏功せず、3/17付で広島地裁に破産手続き開始決定を受けた。」

ここにも、「消費者の低価格志向」の文字がある。アデランスにおいては、低価格志向以前に、おじさんのかつら離れという現象がいわれる。ビジネスモデルが崩れる理由にはいくつかの要因があるが、「消費者の低価格志向」というユーザー自主防衛がアデランスにのしかかった。大手メーカーでは実現できない低価格のかつらを提供する新興勢力が増えている。

インテグラルの佐山展生代表は、経営破綻した国内航空3位のスカイマークを再建させた実績があるが、飛行機はインフラである。国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設である航空会社とかつらは異なる。スカイマーク社に役員を派遣し、佐山氏自身も会長に収まっているが、アデランスの場合は筆頭株主を旧経営陣に譲り、役員派遣もしないようだ。

非上場化のメリットは、株主に気兼ねすることなく思うような経営ができる点にあるが、低価格路線にシフトするにしても、40万円の商品を急激に20万円にはできないだろう。NHKが視聴料金を下げると発表したが、聞いてビックリたったの50円ではへそが茶を湧かす程度で結局取り止めた。380円の牛丼を300円にするのとは違ってアデランス低価格路線は難しい。

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2000年に創業したかつらメーカー、「With(ウィズ)」のWebサイトには、オーダーメイド全頭かつら16万8000円、部分かつら14万8000円など料金表を公表している。これは大手メーカーの半額以下であり、これまで、「かつらのために働いている」とした大手メーカーかつらユーザーの嘆きが、ここにきて安価な新興勢力に乗り換えてしまうという時代の到来である。

さらには上記のした、おじさんのかつら離れの加速がある。「ハゲを隠した男は幸せになる」というプロパガンダを成功させたアデランスだが、竹中直人や西村雅彦らは、「ハゲ」を個性としており、ジョブズにしろ、孫正義にしろ、かつらを100個も200個買えるお金持ちセレブが、堂々ハゲでいるというのは、お金があってもかつらを買わないとの意思表示である。

孫氏は、「ハゲは病気ではなく、男の主張である」といったというが、これは名言であろう。ここで、「ハゲとづらバレとどっちがオカシイ?」という質問を路上でやるとして、どういう結果が出るだろうか?圧倒的に、「づらバレ」と自分は予測する。となると、カッコ悪いずらバレより、「堂々として自信に満ちた潔いハゲ」は、カッコわるいどころか清々しくもカッコいい。

芸能人や有名人のハゲは一目瞭然だから探す必要はないが、づら探しは結構話題になる。づらバレに怯えながらのネガティブな人生より、堂々とハゲで生きる方が、人生を攻める強さがある。「高価格帯かつらのビジネスが崩れ始めている」というメーカーの分析は、日本人のハゲが、「カネはかかってもハゲを隠したい」という劣等感が薄れつつあるということ。

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「カネはかかってもハゲを隠したい」⇒「カネがあってもかつらは買わない」という流れは、カネがないから買えないというネガティブさと違い、かつらを不要とするポジティブ思考の時代への変化であろう。安売りかつらを提供する新興メーカーの、ユーザー保有数を知ることはできないが、かつらは安くても不要とする時代は、大手メーカーや新興メーカーにも危機的である。

このようなハゲびとの価値観の変貌とともに、かつら業界は斜陽産業の道を辿るのか?投資ファンド会社に資金的な救いを求めてはみても、重要なのは、「男性かつら」の新たな価値観を生み出せるかにかかっている。かつて、「道を歩くことすら恥ずかしかった」ハゲが、個性といわれる時代にあって、一体どうやってかつらを売る?「津村くん、頑張っちくり!」


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