名言は不滅的。言葉も永遠に変わることはないが、ふつう言葉は時代と共に変節する。かつて化学繊維のことを、「人絹(じんけん)」といった。これは人造絹糸の事。テイジンは帝国人絹織物株式会社のこと。小麦粉をメリケン粉といった。アメリカ製の小麦粉で、アメリカンがメリケンと聴こえたようだ。バイクは単車だが、現在でも通じる。カップルはアベック、ブラジャーは乳あてと言った。
ハンガーを衣紋かけ、ノートを帳面、シュミーズはスリップ(またはキャミソール)、パジャマを寝巻き、ティッシュはチリ紙、ポットを魔法瓶、耳飾りはイヤリング、キスを口吸い、コンドームをサック、ゴム靴をズックまたは運動靴と言ったが、いつかスポーツシューズに変わった。いつごろからスニーカー?マツダファミリアのCMでトランザムが、"スニーカーに履き変えて"と歌ったのが77年。
近藤真彦の『スニーカーぶる~す』が80年であるからして、スニーカーが耳に馴染み出したのは70年代の中頃であろうか。仲井戸麗市が古井戸時代に作った、『バスケットシューズ』は、アルバム『オレンジ色のスケッチ』(72年9月発売)の挿入曲で、バスケットシューズに何の違和感もなかった。バスケットシューズの言い方は今もされるが、ハイカットスニーカーに変わりつつある。
ズックは完璧に死語。オランダ語の靴(doek)が日本語になったもので、1880年代にイギリスでスポーツ用に使われた布製ゴム靴のこと。日本では、昭和20年代にオニツカ(現アシックス)が学校に納めまた。スニーカーは、英語の"Sneak"(忍び寄る)から派生。靴底の堅い革靴と違い、柔らかい素材でできたスニーカーを履けば、後ろから音をたてず静かに忍び寄ることができる。
1916年、Keds社が販売の段階で、「静かなクツ」ということをセールスポイントにし、そのキャッチフレーズの一部から産まれたもの。スニーカーにも本皮製、合皮製があり、布製はキャンバスと呼ぶ。子ども用にはマジックテープが主流だが、その事で靴紐を通せない、結べない子どもがいるという。新しいシューズを買ったときの紐を穴に通す快感は処女をいただく楽しみか。
1977年発売の原田真二「てぃーんず ぶるーす」の歌詞に、「僕のズックはびしょぬれ」というのがあるが、3年後には近藤真彦の「スニーカーぶる~す」。どちらも松本隆の詞で、作詞家は言葉の移り変わりに敏感だから、思うところがあったのだろう。「ズックぶる~す」ではダサく、邪推するなら1979年、「太陽にほえろ!」で、松田優作演ずる、"スニーカー"という刑事の影響か?
『ニューバランス』のランニングシューズが、昨今のスニーカーブームの火付け役といわれるが、実はブームをより過熱させたのは、『アディダス オリジナルス』の1足といっても過言でない。うなぎのぼり人気の、『アディダス オリジナルス』とは一体何ぞ?『アディダス』ブランドの中で、いわゆるクラシックモデルは、『アディダス オリジナルス』というのが正式なブランド名。
1996年まで同社のカンパニーロゴだったトレファイルロゴの三つ葉がシンボルマーク。これはもう、ファッショニスタをはじめ多くの人から愛される、『アディダス オリジナルス』のスニーカー。人気の3つのモデルは、スタンスミス、スーパースター80s、カントリー OG、これが、『アディダス オリジナルス』三種の神器。なかでもスタンスミスは、世界一売れたスニーカーでギネスに登録されている。
1965年に開発された世界初のレザー製テニスシューズを原型とする名作にして、『アディダス オリジナルス』史上もっとも売れたモデル。どんな着こなしにもしっくりハマる、“シンプル”という言葉がぴったりな表情に、パンチング加工によるスリーストライプスなどのデザインが幅広い層から愛されている。履いている人と遭遇しない日はないくらいに、男女問わぬ大ヒット商品。
上品な表情がジーンズからスラックスまでハマる汎用性の高い名作モデル。むかしはアディダスを履けるようなリッチな奴はいなかったが、現在、アディダスを3足持っており、その中のレジェンドな一足は、1977年に購入したもの。加水分解も進み、ソールは石のように硬化して滑って履ける物ではないが、なぜか持っている。TK8807の品番があり、形状からテニスシューズであろう。
検索してもみつからない。スニーカーの名作といえば、「コンバース」、「ニューバランス」、「ヴァンズ」、「アディダス」、それに「ナイキ」。なかでもスニーカーブームの中心にあるブランドといえば「ナイキ」であろう。今でこそ世界最大のスポーツ&フィットネス会社だが、元々はスポーツシューズの販売から始まった。ナイキはスニーカーを芸術品にまで高めたが、当初は機能性一辺倒であった。
ミッドソールの中にエアバッグを仕込むという度肝を抜く発明を使ったバスケットシューズ、「エアフォースワン」、「エア・ジョーダン」、「エア・マックス」は、特段スニーカーに詳しくない人でも一度はその名を耳にする。1982年に発売された、「エアフォースワン」は、「ナイキ」を世界のフットウェアブランドに押し上げた名靴で、クラシックなシルエットでファンを魅了し続ける。
名作スニーカー各社で最も古いのがコンバースである。数多あるモデルの中でも、「キャンバス オールスター」は、約100年前に誕生し、いつの時代にも愛された名作中の名作。魅力の要因は、お手頃価格にて入手も簡単、服に合わせる靴を選ぶときに悩まず考えず、とりあえず履いてもすんなりとハマる。常時、1足はストックしておきたい足元の鉄板スニーカー。
かつてズック(スニーカー)は白が多かった。ほとんど白一色で、現在でも当地の中学生の通学シューズはノーラインの白一色と限定されている。コンバースのキャンバス地に黒、青、赤などがあって、黄色やピンクに度肝を抜かれて買った記憶がある。昔から黒を貴重としたモノトーンが嫌いで、とにかく色を楽しみたい性向だった。近年、世界的トレンドワードが「Tacky(タッキー)」という。
タッキーとは、「悪趣味な」という意味を持つ言葉で、2016年のプレスプリング・コレクションでは多くのブランドが悪趣味ギリギリの、際どいスタイルを提案している。シンプルから一転、新鮮なタッキースタイルは、トレンドになるかも知れない。また、「悪趣味」という自虐的な言葉が何だってやれる推進力となろう。どのメーカーのスニーカーも、近年目立ってカラフルになっている。
「足元を見られる」という言葉は、弱点を見られる、察知されるの意味。語源は、昔、街道筋や宿場などで駕籠かきが、旅人の足取りを見てどのくらい疲れているかを判断、それによって料金をふっかけたことから発生した言葉。今では足下を見る、足許を見るなどに派生し、靴を見て人となりを判断する。人を見抜くに卓越した人にいわせると、靴は履いてる人を現すという。
どれだけオシャレに気遣う、流行や可愛い服を着ていても、履いている靴や、履き方を見るだけで、その人の性格や本性が丸見え。オシャレ好きな国、イタリアの諺に、「その人の人格は、その人が履いている靴をみればわかる」というのがある。ドレスコード(服装規定)があるような格式高いホテルでは、客の服装が細かくチェックされるが、最初に見られるのが靴。
着ている服、お化粧、身につけるアクセサリーも大事だが、それらは気を配って当たり前。それに加えて、足元までも、細やかな配慮が行き届いているかどうかが、その人の人柄を見極めるための、重要な判断材料となる。「おしゃれは何より足元から」という言葉があるように、ファッションアイテムの中でも1番お金をかけたいのが靴と豪語する人もいる。
あまりカッチリは好まないし、そういう場所も遠慮したい派だ。フランクを自認するだけに、靴も服もハートもフランクである。むか~し、フランク永井という歌手がいたが、堅くてフランクではなかったが、フランキー堺という役者はフランクであった。フランクとは、気取ったところがない、率直、気さく、ざっくばらんの意味。彼が行きつけの理髪店主は、彼専用の洗顔石鹸があったそうだ。
なんと洗濯用石鹸だった。フランキー堺はかなりの脂性でphの強い洗濯石鹸で洗った後のキシキシ感を好んだという。脂(油)汚れなら台所用中性洗剤がいいだろうが、昔はそういう物がなかった。広島に「マケン」というどんな汚れも落す粉石鹸があった。マケン石鹸株式会社製造の商品名で、「どんな汚れにも負けん」から取られた「マケン」。子どものころ、これでよくズックを洗わされた。
今、スニーカーはブームだという。自分も愛用者の一人だが、ブームだから履いているわけでも、履いているからブームの一員という自覚もない。もともと流行り、廃りに関心が無いからか、トラッドな洋服を好むし、「定番」という商品に抵抗感はない。寛斎だったか一生だったか、「流行とは今人の着ている服ではなく、あなたが今着る服のこと」といったが、要は人真似はダメってことだろう。
なのに流行ってのは多くの人が同じようなものを着る。上の言葉は、流行を生み出す側となぞる側とのギャップを感じさせられる。コンバースのスニーカーが一世を風靡した事があった。あの時代、運動用以外のライフスタイル用スニーカーといえば、コンバースだったのも、シンプルイズビューティーだったかも。また、学生やプアーな人、いささか懐のサブイ人にとって心強い味方でもあったろう。
近年こそコンバースのスニーカーには高価なモデルもあるが、「キャンバス オールスター」は値段も手ごろで、無駄のないシンプルな外観・意匠は、数多存在するスニーカーの中でもまさに、"永遠の定番"といえる。100年の長い歴史があり、フォルムに多少の変化はあるが、白のラバートゥやヴァルカナイズド製法(加硫圧着しながらソールを成型する製法)などは踏襲されている。
何と合わせても足元にバツグンの安定感をもたらせてくれるコンバースのキャンバス オールスターハイカットは、バッシューといえばこれだった。くるぶしを保護するディテールであるアンクルパッチには、選手兼営業マンとして、「キャンバス オールスター HI」の名を世に普及させた、チャック・テイラーのサインがある。スニーカー通ではないが、オールスターとチャック・テイラーの違いを検証する。