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『TATTOO<刺青>あり』 雑感

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1月28日。梅川はほとんど寝ていなかった。それで疲れもでたのか朝8時頃、新聞を広げながらウトウトしていた。8時40分、行員の合図で7名の狙撃隊員が突入、一斉射撃をした。頭、首、胸に被弾した梅川は、「殺すぞ…」と一言呟いたという。梅川は天王寺の大阪警察病院に搬送、意識不明の重体であったが脳波は確認され、大量の輸血と銃弾の摘出手術を受けたが同日午後5時43分死亡が確認された。

前日27日にはもう観念したのか、午前9時前には特捜本部に電話し、車に積んである映写機を友人に返して欲しいと依頼している。さらに行きつけの飲み屋などに次々と電話し、「もう会えんやろ」、「金を返す」などと伝えた。とにかく梅川は謝金に悩まされていた。「借金が500万あるんや。これをどうにかしたい。おふくろにも500万残してやりたい。おまえら知恵を貸せ」梅川は行員に相談した。

行員らが知恵を出し合うと、梅川はこう結論を出した。まず梅川名義の預金口座をつくり、そこへ一部の人質解放を条件に500万円を銀行から融資というかたちで動いた。そしてすぐに全額払い戻しを受ける。その金は人質の行員を使い走りにして、サラ金各社に返済に行かせるというもの。すぐさまその手続きがされた。梅川は残高ゼロの通帳を見て、「ほう、これでええわけや」と呟いた。

梅川は借入先を行員に教え、「おまえが帰って来なかったら人質を殺すからな」と言い、梅川の返済の使いに出た行員は、10ヶ所ほどの借入先をまわり、梅川との約束どおりに銀行に戻った。深夜のことである。「走れメロス」ではないが、梅川は行員が約束を守ったことを喜ぶ。が、この行員は警察突入時の合図役としての任務を警察より承っていた。なお、この借金の返済は無効、後日、警察が回収した。

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借りた金は返すという梅川の律儀な一面が伺えるが、友人への最後の電話は死を覚悟したものだった。「おう、俺や。借りてたものは返すで。もう一生会えんやろ。元気でやれよ」、「捕まったら死刑や。もうあかん」、「自首するなんて、もう無理や。あかんのや。そんなこといわんといて。借金は返すで…」などなど。この頃、裸の女子行員に対して、服を着ていいと命令している。

午前10時頃、大阪府警のヘリで香川県から梅川の母親(当時73歳)が現場に到着。母親が説得に来ていると告げられた梅川は、「そらあかん」と電話を切った。警察は梅川と人質への差し入れに母親からの手紙を入れた。梅川は女子行員にその手紙を読み上げさせた。女子行員はたどたどしく、首をかしげながら読み上げた。梅川は言った。「読みにくいやろ。おふくろはそんな字しかかけんのや」。

梅川は近くにいた女子行員にこう問いかけた。「お前の息子が事件を起こしたら、どうする?」女子行員は少し考えて、こう言った。「叱ります」。「それがええ!」と、梅川は心底喜んでいた。映画『狼たちの午後』でもソニーの母親が登場する。FBIに呼ばれて連れて来られたようだ。梅川は母親と会話は出来なかったが、ソニーは外で待つ母親のところに出て話をする。

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警察:「ソニー、面会人だ。出てきてくれ」

ソニー:母親を見るなり、「ママ、何しに来たんだ?困るじゃないか!」

母:「町中の大評判よ。テレビもきてるし。FBIの人が来て、その人がいうには無事に済むって」

ソニー:「FBIなんかと話すんじゃないよ」

母:「ベトナムでどれだけ戦ったかもいったわよ」

ソニー:「飛行機でアルジェリアへ行く。手紙は書くよ」

母:「アルジェリアで?なぜなの?」

ソニー:「今ここでママと会うと、諦めたと思われる」

母:「いいでしょ、それで」

ソニー:「アルジェリア行きは諦めない」

母:「FBIは分かってくれたわよ。すべては家庭が悪いんだって」

ソニー:「アンジー(妻)のせいにするなよ」

母:「アンジーが悪いからレオン(ソニーのゲイ友)みたいな男とさ…。なぜ、あんな女一緒になんたの?子どもも養えないのに女房なんかもらって」

ソニー:「ママ!今そんな話をしてる場合じゃない、止めてよ」

母:「おいで、逃げるのよ」

ソニー:「行く所がない。帰ってくれよ!パパは?どうしてる?」

母:「勝手にしろって言ってるわ。俺の息子は死んだって!」

ソニー:「ああ、その通りだ。俺は落ちこぼれの不良だ。だから俺に構うなよ!」

ソニー:(警察に向かって)「ママを送り返してくれ!」と、言い捨て銀行内に戻る。

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なんというか、湿っぽくないというのか、こんなところで姑が嫁の悪口をいったり…。言葉の文化のお国である。衆目の面前で怯むこともなく、遠慮することもなく、母と息子の会話である。どんな時、どんなところでも、会話があるものだと感心させられる。さすがに父親は、「あんなバカはもう自分の息子ではない!」と、いかにも父親らしい突き放した態度である。歴史に、「もし」は無意味であるが…

もし、あの時誰も殺さず銀行強盗が上手くいって、事件後も逮捕されず、上手く逃げ馳せたであろうか?目撃者も多く、優秀な日本の警察だから、捕まった公算が高いと思うが、万が一捕まらなかったら、梅川の望んだ母親孝行が出来たであろう。梅川の母親は事件から9年後に死去した。2人は、香川県のとあるお寺の供養塔内で、無縁仏の石碑の中に眠っている。

36年前の事件だが自分の中では風化していないし、納得できないこと、考えるべきことは多い。梅川は子どものころから生粋の悪党だった。悪ガキというなら可愛いが、15歳の時に強盗殺人を犯し、被害者は6ヵ所を刺された上に無数に殴打され、現金や株券、通帳が奪われた。成人なら死刑もありえる凶悪事件だが、わずか1年ほど出所、15年後にこの事件を起こした。

イメージ 8あえて結果論をいえばあの時死刑にすべきだった。少年保護のための少年法は、矯正できなければ無意味。「このような資質の少年を社会に放任することはきわめて危険であり、積極的に規制する必要がある。この病的な人格はすでに根深く形成されており、矯正は困難であり、些細なことで反社会的行動や犯罪に結びつきやすく、累犯の可能性が極めて高い」。この梅川の鑑定結果は、生かされなかった。
そんな梅川が、はからずも猟銃の所持免許を取り、正規の手続きで散弾銃を入手できた。殺人歴のある梅川になぜ警察は銃の所持を許したのか?理由を聞いて見たいが、こういう事になったならいかなる理由も説得力はない。事件後、捜査官が梅川の部屋へ家宅捜査した際、六法全書、経営学、医学などの書籍が600冊あった。何を何冊読んでもあれでは笑止千万。

ソニーの母親も見境のない女だが、どんな息子でも腹を傷めて産んだ子に違いない。梅川の母も息子が搬送された警察病院で、弾丸摘出手術を待つ間のやり取りがある。「息子はもうアカンのですかいの?」、「電話で自首するよう言ったけど、あの子は聞いてくれんかった。私は耳が遠いし、字もうまく書けんので、よう伝わらんかったんかも知れん。」

「私だけは最後まであの子の味方でいてやりたかった。でも、もう、アカンでしょう…」と涙ながらに語った。母親に罪はないが、こんな人間にした罪はあるだろう。梅川説得のために警察から現場に同行を求められた母親は、美容院に行き、2時間かけてパーマをかけて出発したという。「そんな親にしてこの子ありではないのか?」と、正直思いたくもなる。

パーマをかけて行こうとの発想はどこからでるのか?予断であり、偏見かもしれない。が、息子があのような状況にありながら、パーマはないだろう。母も息子も見栄っ張りだったのだろう。納得できないことは他にもある。これは日本の警察のあり方の問題に合致するから、一概に善悪をいえないが、改善の余地は大いにある。自分が警察官なら当然、上に具申するであろう。

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警察の銃の使用についての問題提起である。警察官が何かの事件で発砲することはある。その際、幹部は必ずや、「今回の銃の使用はやむを得なかったとの認識である」などという。こういう都市伝説がある。「日本の警察の使用する拳銃の最初の一発目は空砲である」。これに対する公式な見解として、「空砲は支給していない」である。確かに拳銃使用は厳しく限定されている。

警察官の拳銃使用については、『警察官職務執行法』という法律があり、警察官の武器使用が認められるのは、犯人の逮捕に必要な場合と、警察官もしくは他人の防護のために必要な場合のどちらかに限られている(同法7条本文)。人に危害を与えることが許されるのは、原則として、刑法上の「正当防衛」などにあたる場合に限定されている(同7条但し書き)。では「正当防衛」とは?

刑法上、『正当防衛』が成り立つためには、(1)急迫不正の侵害と、(2)防衛行為の必要性・相当性という要件が満たされる必要がある。かみ砕いて言うと、(1)は、「自分や他人の身に(違法行為など)不正な危険が差し迫っていなくてはならない」、(2)は、「身を守る必要性があり、手段も妥当でなければならない」。武器(拳銃)でむやみに人に危害を与えてはならない事が前提。

では、三菱銀行事件で現場に行き、「銃を捨てろ!」と拳銃を抜いて梅川に向け、ワザと外す威嚇射撃をした後、梅川に射殺された住吉署楠本正己警部補(52)は正しかったのか?何をいっても結果論になるが、即射殺していれば、自らの命も含む4人の生命と、2人の負傷者を出さずに済んだ。警察と言うところは、こういう時になぜ、あれ(威嚇射撃)は正しくなかったといわない?

おそらく警察の見解はこうであろう。相手は猟銃持参で危険大であり、威嚇射撃後に撃たれる可能性もある。直ちに犯人に向けて発砲すべき状況である。それをしなかった楠本警部補のミスとはいわないにしろ、高度の緊急性、危険性はその場の警察官に委ねるしかない。そうかも知れぬが、すぐに撃たない(撃てない)のは、拳銃使用における縛りがあるからだ。

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もし、楠本警部補が間髪をいれず梅川を射殺していたなら、おそらく批判の的となったであろう。「逮捕しないでいきなり射殺とは何事か!」そういう警察批判がマスコミ、世論から沸き起こるのは目に見えている。誰も、(起こってない)その後のことを知らず、予測もできないからそのようにいう。あの時、あの場での楠本警部補の判断が問答無用の射殺であっても、彼は批判に晒される。

梅川射殺後、吉田六郎本部長は記者会見に臨んだ。「梅川への発砲は8発…」などと狙撃に至るまでの経緯を淡々と説明したが、取材陣の最後の質問に対し、「7人の狙撃隊が一斉に発射したが、誰の弾丸が梅川に命中したかは言えない」。特捜本部は梅川の死後、遺体から摘出した弾丸を鑑定したが、その結果は最後まで公表しなかった。銃火器使用についてのすこぶる配慮が伺える。

さらにこう付け加えた。「(狙撃隊の)的確な行動があったから新たな犠牲者を出すことなく、人質全員の無事救出に成功したのだ。彼らは殺人犯ではない」。ここまで気を配る必要があるのだろうか?相手がいかなる凶悪犯でも、人を殺せば殺人犯との認識がこのような言葉を選ぶ。諸外国では考えられない凶悪犯への配慮だが、これもお人好しの日本国なのである。

梅川に狙いを定めて「銃を捨てろ!」と言った楠本警部補の認識が甘かったと批判する前に、あくまで逮捕優先と言う警察の体質がどうであったか。相手が銃でなくナイフとか日本刀の類なら、銃を構えて「ナイフを捨てろ!」の威圧は利くが、銃を持ってる相手に「銃を捨てろ!」といって、捨てるバカはいないだろう。自分が警官なら、「銃に対しては先手の発砲を!」と具申する。

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相手がすぐに撃たない場合もあろうが、すぐに発砲した場合はアウトである。予測はできない以上、銃所持者犯の場合、「先手の発砲」許可を明記すべきである。逮捕だ、何だと手ぬるいことをいっているようでは、この事件の教訓とはならない。銃を持った人間を野放しにしない。さっさと始末する。結果論とはいえ、威嚇射撃をしたばかりに凶弾に斃れ、6名の死傷者を出した。

予測できない場合の対処法として、何が正しいのかと問われるなら、答えは「状況判断」というしかない。あらゆる状況判断というのは、結果の前にすべきものであり、結果が出た後に状況判断とはいわない。結果はもはや状況ではないわけだ。野球の結果が出た後に、"実況中継"もへちまもない。アメリカで成功した企業経営者のアンケート結果がある。

それによると、最も大切なことは、「Sense-Making」だと答える人が多いという。Sense-Makingを日本語に訳すと、「正しい判断が出来る」、「正しい方法が選べる」というような意味である。つまり、状況に応じて正しく判断をしていくことが出来る能力。確かに「判断力」は、極めて広い意味の言葉だが、どの場合であっても、「判断力」とは次の三つの能力に分解できる。

1. 今が判断するタイミングだということを認識できる(Judgement call)

2. 正しく状況判断と分析が出来る

3. 2から論理的に正しい結論を出せる

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「判断が大切」、ということは分かっているのに判断を間違えるのは、多くの場合、2に問題がある。人が判断に失敗する大きな理由は、判断するのに必要な情報が足りないからだ。妻が機嫌を損ねているときに、間違ったことを言って余計怒らせてしまうのは、妻が何故機嫌を損ねているのか、自分に何を求めているのか、という情報が足りないからである。

人の心の情報など目に見えないに決まっている。それを正しく判断するのが洞察力であり、論理的思考力である。銀行に駆けつけた警察官も、犯人の心は読めないにしろ、咄嗟の状況判断できたはずだ。が、殺害より逮捕優先という日本の警察体制が不幸を生んだ。銃を構えて、「ナイフを捨てろ!」なら捨てるだろうが、銃対銃の状況判断は、マニュアル化すべきであろう。


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