梅川は、銀行の北側に位置する玄関から銀行内に入り、ゴルフバッグから猟銃(上下二連銃)を取り出すと、「みんな伏せろ!」と怒鳴った。そして、天井に向けていきなり2発を発射した。発射音が行内に響き渡り、天井からバラバラと破片が落ちてくる。行内は悲鳴が轟きパニック状態となった。梅川はそのままカウンターに近づき、持って来た赤いナップサックをカウンターの中へ投げ込むと…
「金を出せ!10数える間にこん中へ五千万円入れぃや!」と怒鳴った。支店長である森岡浩司支店長は2階にいたが、銃声を聞いて急いで1階へ駆けつけた。この時1階にいたのは行員34人(男14人、女20人)、客は17人(男7人、女10人)の合計51人である。地下の貸金庫室の近くにいた客は、すぐに貸金庫室に逃げ込み、1人はカウンターの陰に隠れた。応接室にいた客2人はそのまま応接室内に隠れた。
「早よう出せ!出さんと殺すぞ!」、梅川が怒鳴る。この時カウンターにいた窓口係の男性行員(20)が、すぐに2階の事務所に電話し、「強盗です!早く110番して下さい!」と叫んだ。これに梅川が気づき、「何をしやがる!」と、その男性行員に向かって2発を発射した。上半身に散弾が直撃した行員は即死。後ろにいた貸付係の男性行員の後頭部に散弾の一部が当たり、この行員は重傷を負った。
この間に客の女性(52)と、行員の女性(52)、行員の男性(39)の3人が銀行内から逃げ出すことに成功する。この逃げ出して来た客の女性が、たまたま銀行の近くを自転車で通りかかった住吉署警ら係長・楠本正己警部補(52)と出くわす。女性から事情を聞いた楠本警部補はすぐに銀行内に飛び込んだ。梅川は、ナップサックに詰めさせた金を持ち、更にカウンター上にあった紙幣をポケットに入れていた。
楠本警部補は梅川に、「銃を捨てろ!」と叫び、拳銃を向けた。警官に気づいた梅川は、「撃つなら撃ってみぃや!」と怒鳴り返す。すかさず警部補は1発発射したが、ワザとはずす威嚇射撃であった。これに対して梅川も猟銃を発射した。梅川の放った弾丸は警部補の胸に命中し、警部補はその場にばったり倒れ込んだ。「110番・・110番・・。」と叫びながら、楠本警部補はそのまま死亡した。
同時に銀行内からの脱出に成功した残りの2人の行員は、1人は電話ボックスから、もう1人は近くの喫茶店からそれぞれ110番通報した。銀行内でも警察への非常ボタンを押した。大阪府警・通信司令室から支持を受けた阿倍野署の前畠和明巡査(29)と永田幹生巡査長(34)がパトカーで銀行に到着した。この時点で14時37分。事件発生から7分後のことである。まず、前畠巡査が行内へ入った。
この時梅川は受付カウンターを飛び越えて中に入り込んでいたが、入ってきた警官を見つけると、ためらわずにまたもや猟銃を発射した。散弾は前畠巡査の胸に命中、前畠巡査は即死だった。この時点で行内に入った警官は3人、うちの2人が射殺された。日本の警官の不用意さというより、銃慣れしていない悲劇である。この後すぐに東康正巡査部長(30)と能登原芳夫巡査(29)が自転車で現場に到着。
殺された前畠巡査と現場についた永田巡査長が北側の入り口から、今到着したばかりの東巡査部長と能登原巡査(29)が東側の入り口からそれぞれ行内に入ろうとしていたが、永田巡査長のすぐ近くには梅川が立っていた。永田巡査長も自分の近くにいた梅川に気づき、とっさに身を隠した。直後、梅川の放った弾丸が永田巡査長のすぐ横の壁に激突した。梅川は銃に散弾を込め直そうとした。
その時、東巡査部長が「撃つぞ!」と叫んで1発発射したが、威嚇射撃なので梅川には当たらなかった。「シャッターを降ろせ!」と、梅川が行員たちに命じた。行員たちがすぐにシャッター閉鎖を行い、北側、東側の両方の出入り口のシャッターが降りていく。この時、東巡査部長はとっさに外に出て、近くにあった自転車や看板を東側シャッターの下に持ってきて、完全には閉まらないように物をかました。
シャッターは40cmの隙間を残してそこで止まった。また、もう一か所の北側のシャッターもこれと連動しているためか、こちらのシャッターも同じ40cmの隙間を残して止まった。この後、わずか数分の間に次々と警官が駆けつける。1人の警官がシャッターが閉まりかけていた北側の入り口から突入したが、そこには梅川が待ち構えており、2~3mの至近距離から梅川はその警官に発砲した。警官は防弾チョッキをつけていて助かった。14時45分。事件発生から約15分後、住吉署の署長、刑事部長、警ら課長が到着し、非常階段を使って銀行の2階へ入る。1階の銀行内は梅川が占拠する危険地帯であったが、2階まで手は届かない。署員は2階にいた行員から事情を聴く。警察幹部が2階に集結している頃、1階では梅川が女子行員の1人に、「あの警官の銃を取って来い」と命じた。
一番最初に射殺した楠本警部補の遺体から銃を持ってこさせた梅川は、猟銃と警官の銃を所持する。銃を片手に行内をうろついていると、カウンターの陰に隠れていた女性客(32)と、その子どもたち2人(7歳と5歳)を発見した。「ボク、立てや。」と、梅川は子どもたちに声をかけ、「お前らは帰れ」と、母子3人を解放した。そうして梅川は、「全員、一列に並べ!」と、行員たちをカウンター内に一列に並ばせる。
「こん中で責任者は誰や!」と叫ぶ。「私です」。森岡浩司支店長が前に出た。「なんですぐに金を出さんかったんや!こうなったのはお前の責任や!」と、支店長の腹に向かっていきなり猟銃を発射した。腹と胸に散弾が直撃し、血しぶきが飛び散る。全員から悲鳴が上がった。森岡支店長は即死した。これで警官2人と、警察に電話をした窓口係の行員、そして支店長の計4人が射殺された。
梅川は男性行員に命じて、1階と2階をつなぐ階段に机を運ばせ、2階からの突入を防ぐバリケードを作らせる。梅川はすでに建物の2階に多数の警官が入っていることに気づいていた。2階から警ら課長が楯を持ってこっそり降りて来て、近くにいた男性行員に、「こっちへ来い」と指示をしたが、「警官がここに来たら自分たちが殺されます」と拒否。バリケードが完成すると、再び行員たちは一列に並ばされた。
「番号かけいや!」梅川が指示し、行員たちは、「1!」、「2!」と声を発し、最後は37番だった。「こん中で病人はおるか!」、梅川が尋ねると、最後37番の女性が、「私、妊娠してます」といった。「帰ってええ。」と、梅川はこの女性を釈放した。そして何を思ったのか女子行員たちに、「服を全部脱げ!10秒以内に脱がんと順番に撃ち殺す!」と怒鳴り、電話係に任命した女性1人以外の女子行員全員を全裸にさせた。
そして自分が座る支店長席の机の前に女子行員たちを外向きに座らせ、自分の周りに壁を作った。「よう、見とれ。これからものすごい惨劇が始まるんやさかい。」梅川は言い放った。この後しばらくして、女子行員だけ脱がせるのは不公平、といことで男子行員の上半身も裸にさせた。中には全裸にさせられた男子行員もいた。15時05分、梅川が乗って来たライトバンを大阪府警が発見した。
この車が1月12日に三重県四日市市の焼肉屋経営者の自宅前から盗まれた車であることが判明した。内部の様子は上記したが、外部の状況はこうだ。事件発生後、三菱銀行北畠支店にはパトカーや装甲車など、約130台の警察車両が次々に到着した。支店の周囲1キロ四方の通行を遮断し、約720人もの武装警官が支店を完全包囲した。行内から銃声が響き、女性行員の絶叫が聞こえていた。
このような事件発生後、通常なら現場を管轄する警察署で記者会見を行うが、大勢の行員や客が人質にされ、銃を所持して籠城する犯人が発砲するという緊迫した状況下、捜査本部も全容を把握できない。そこで閉鎖されたシャッターに手動ドリルで穴を開ける。計7カ所の穴が開けられ、捜査員らが支店内を覗き込む。現場に駆けつけた新聞記者は店内の状況を見た捜査員の1人に駆け寄り質問した。
記者:「支店内はどんな状態ですか?」
捜査員:「とんでもないことになっている」
記者:「犠牲者は?」
捜査員:「猟銃で撃たれた行員2人と警官2人の遺体が床に転がってる。負傷者も何人かおる」
記者:「犯人はどんなヤツ?」
捜査員:「身元はまだ分からんけど、支店長席に銃を構えてふんずり返っとる。わけの分からんことばっかり言っとるみたいや。シャブ中(覚醒剤中毒)かもわからん…」
記者:「人質にされた行員らは?」
捜査員:「言葉では言い表せん。ひどいなんてもんやないで…」
行員28人(うち女性20人)と客8人の計36人を人質に、店のシャッターを閉めさせて要塞化させた犯人は、自分の前のカウンター内に全裸の女子行員を並ばせ、"人間の盾"にしていたという筆舌に尽くしがたい生き地獄のような支店内の凄惨な状況を聞いたが、想像を絶する惨状をありのまま記事にすることは当事者及び、家族・親族のことを思えば到底できなかった。犯人が誰なのかも特定できない。
事件2日目の1979年1月27日午前6時すぎ、大阪府警捜査1課の次席が特捜本部から姿を現し、支店前で会見した。人質を取って立てこもっている犯人が、住吉区内の無職、梅川昭美=当時(30)=と判明したことを公式発表するためだった。身元が割れた経緯は、梅川が支店に乗りつけた車のナンバーから、三重県四日市市内の焼肉店で盗まれたライトバンであることが確認された。
さらに、事件10日前の1月17日朝、梅川が犯行を誘った、大阪府泉南市内に住む小学校時代からの友人である無職男=当時(31)=が、盗んでいたことが判明した。さらにこの男が、梅川の犯行当日の26日午後11時40分ごろ、岐阜県多治見市内で多治見署員に職務質問された際に、自動車窃盗を認めたうえで、「大阪の銀行強盗の犯人は、大阪市内に住む梅川昭美や」と明かしたのだった。
男は、「梅川に銀行強盗を誘われたが、断って大阪で別れた。車には猟銃を積んでいた」と供述。岐阜県警は27日未明に男を窃盗容疑で逮捕、大阪府警に連絡した。特捜本部は犯行に使われた猟銃が、男が言った機種と一致したことから、梅川を断定した。特捜本部は男の身柄を住吉署に移し、強盗予備の疑いで追及した結果、2人が事件の1カ月前から綿密に同支店を下見していた事実が浮かび上がった。
支店2階に陣取った警官隊幹部の1人、住吉署の警ら課長が1階の支店長席に電話をかけた。梅川は出なかったが、代わりに行員が出さされた。特捜本部は発生当日から、支店内の内線電話を通じて説得を続けていたが、梅川はまったく会話に応じず、警官の姿を見るたびに威嚇発砲を繰り返した。突然梅川が自分で電話を取り、110番にかけた。「俺は犯人や。責任者と代われ。」と告げる。
通信指令室の管理者が出ると、「もう4人死んどる。警官が入ってくると、人質を殺すぞ!」と言い放って電話を切った。16時50分、梅川が行員の1人のSに、金のありかや銀行内の構造を聞いたが、S行員はあいまいな返事で、はっきり答えなかった。この態度に腹を立てた梅川は、「お前、落ち着き過ぎて生意気なんや!」とS行員に向かって猟銃を発射。S行員は咄嗟によけたが右肩に被弾しその場に倒れた。
梅川は所持するナイフを別の男子行員に渡し、「まだ生きとるやろ。お前が首を突いてこいつにとどめを刺せ。キモをえぐり取るんや」と命じた。ナイフを受け取った男子行員が咄嗟の機転で、「もう、死んでます」と答えると、「お前ら『ソドムの市』を知っとるか?」と、うすら笑いをし、「ならそのナイフでこいつの耳を切り落とせ。『ソドムの市』で死人の耳を切る、あの儀式をするんや。」と命じた。
「切れません、切れません…」と泣きながらに懇願するが、梅川は、「お前も死にたいんか!」と銃口を向けた。男子行員は倒れているS行員の左耳にナイフを当て、「すまん…、すまん…、生きててくれ、助かってくれ…。」と謝りながらS行員の左耳の上半分を切り取った。あまりの激痛に右肩を撃たれて負傷したS行員は気を失った。梅川は切断された耳を持って来させ、口に入れて噛み、「堅い。まずい。」と吐き捨てた。
この直後梅川は、「警官の顔が1人でも見えればその都度、行員を1人ずつ殺す」と書いたメモを女子行員に渡し、2階の捜査本部に持って行かせた。更に、男子行員に110番をかけさせ、「警官が1人でも入ったら人質を殺す」と伝えさせた。自分が気に入らない態度を取った女子行員の髪を掴んで引きずりまわしたり、銃口を身体に押し付けたり、人質に当たるスレスレで銃を発射したりのいたぶり三昧。
発砲されるたびに女子行員の「キャーッ」という悲鳴が上がった。「助けて下さい、助けて下さい…」と手を合わせ、泣きながら女子行員は必死に梅川に懇願する。まもなく吉田六郎本部長が2階の捜査本部に到着、今後の救出作戦の全面的な指揮を取ることになる。18時45分、刑事部捜査一課特殊捜査班(現:MAAT)が、手動ドリルでシャッターに7箇所の穴を開けたのは、吉田本部長の指示であった。
梅川は2階に電話し、支店次長に、「400グラムのサーロインステーキとブドウ酒を持って来い。」と命じる。次長は捜査本部に伝え、捜査本部も了承。ステーキに睡眠薬を塗ったらどうか、との意見が出され、レストランからステーキが運ばれたと同時に、警察病院から液体睡眠薬を持参させた。警察幹部の1人が試しに舐めてみたところ、舌がピリピリする。これはすぐにバレてしまうと睡眠薬作戦は中止された。