「人はなぜ結婚するのか?」と聞かれたらどう答えるだろうか?聞く相手の年齢やその時の気分によって答えは変わる。まともに答えたい気分の時はこんな風にいう。「結婚は異性結合であり、人類存続のための制度。動物や虫けらであれオスとメスの交尾によって子孫を増やすが、人間の場合、重婚や近親婚などの禁止条項を設けている。人類が正しく繁栄するように…」。
まともに答えたくない気分なら、「何で結婚するかって?タダでやれるからじゃないのか?好きな相手を性的に占有できるし…」。まともじゃないといってもあながち嘘でもないが、好きな相手を性的に占有できるかは疑わしい。以下のような別の答えも浮かぶ。「人間はしたいことをするし、結婚もしたいことの一つ。結婚してあれもしたいこれもしたいがあるだろう?」。
結婚の生物学的前提は、「種族保存」であるが、「意中の相手と一緒に暮らしたい」、「結婚によって所帯を持てば社会的に認知される」、「自分の子どもが欲しい」などの社会的要素もなくはない。が、「したいからする」は間違いではなかろう。だから、「したくない」人は結婚しない。それとは別の、「したくてもできない」という人もいて、相手さえいればと簡単ではなさそうだ。
こういうタイプは厳密には、「結婚できない」ではなく、「結婚しない」。彼女たちが、「結婚できないの」というのは、周囲に選り好みが激しいと思われたくないこともある。意地悪な女にかかると、「いくらでもいるでしょう相手なんか。高望みしてる年でもないんじゃないの?」などといわれる。こんな言い方されると、「うるさいわね~、私の勝手でしょう?」と返したくもなる。
男なら同じ言い方をされても、「だったら誰かいい女を探してくれんか」などと、目くじらたてたりしない。それほど女にとって相手選びは切実なのだろう。動物の虫や鳥のメスにも同じケースはあるようで、動物のメスにとってよい子孫を残すというのはプログラムされた本能行動だが、ヒトのメスの相手選びはちょいと違う。資産家がよい子孫を残すことにはならない。
そうはいっても、お金持ちなら子どもにたんまり教育費をかけられ、よい企業に就職でき、あげくよい縁談にも恵まれる。こういう一連の図式も、「よい子孫を残したい」の範疇かもしれない。それ以上に顕著なのは、イケメンを選んでよい子孫を残したいのも無意識の本能行動だろう。メスの経験はないが、というのはそういうものかもしれない。が、問題は「幸福」の定義である。
玉の輿婚が破綻するケースは少なくない。「カネとヒマのある男はロクでなし」という言葉もあるように、結婚は恋愛ではない。結婚後に起る現実をその都度受け入れねばならない。その気構えこそが結婚なのかも知れない。人間は誰でも夢を持つし、若い女性は結婚に憧れを抱くものだが、男にとって結婚は日常との意識は強いのだろう。結婚に夢を抱いたところでその通りにはならない。
結婚後にあるのは厳しい事実であり、否が応でも現実が畳みかけてくる。そもそも「思いのままにならぬのが人生」なら、結婚とて同じことだ。だからといって諦めるのではなく、よりよい方向に改善すべきことは改善すればよい。人間を不幸にする原因の一つは貧しさだけではないし、自己に対する過大な空想も不幸の原因だ。多くの若き女性はこの種の不幸を担って人生に出発する。
結婚前に広大な理想を描いていた女性の一人として頭に浮かぶ西川史子。彼女の告白記事を読んで感じたのは、夢と現実に打ちひしがれた女性の哀しさであった。若くして医師免許を得、ミス日本にもなるなど天国気分の只中にあった彼女が、結婚生活のなかで地獄体験 (彼女の言葉) を味わったといい、「旦那が家を出て行った」と、レギュラー番組の放映中に泣きじゃくった。
満身創痍の様相は見るに忍びない。人には毅然とした発言をするが、自分のこととなるとまるで少女のようである。「お互いに人と暮らすのが得意じゃなかったんだと思います」と離婚理由を自ら分析した。そういうことも結婚に影響するなら、何を基準に選んだところで、結婚しなければ分からぬこともある。前回述べたようにその意味において、結婚は冒険であろう。
女性は冒険を好まない。結婚が冒険であるなど思いたくはないが、冒険的なところは否定できない。恋愛から結婚に進み、これまでとは違った男女の共同生活がスタートする。起居をともにし、働き、生活不安と戦いながら生きていくことになる。結婚1~2年後は恋愛感情も残っているが、やがては平凡な生活の日々となる。互いの人間を丸出しにするから夫婦喧嘩も絶えない。
結婚当初、「理想の相手を見つけた」と、女性はのろけ微笑む。「理想の夫」や、「理想の妻」を射止めながらも結婚後に、「理想の相手」ではなかったというのを耳にするとき、「理想の夫」や、「理想の妻」たちは、本当に自分の描く理想を持っていたのかだろうか?さらには、自分のことは棚にあげて相手にだけ、「理想的であれ」は虫が良すぎたのではなかろうか?