古い記事にたまにコメントが付くと、「こんなこと書いていたか」と懐かしくなる。他人の考えに異論・反論を述べたいは人の常だが、むやみに披露せず心に留めておく人もいれば的を得ぬ反論をいう人もいる。記事の読みが浅く、真意の理解に及ばぬコメントを読むと、「読解力」がいかに大事かである。「自分だけ分かればいい」とならぬよう、文章はくどいくらいで丁度よいのだろう。
今回のような誰かの行為(今回は樹木希林)を批判すればファンが憤る。あくまで発言の是非の指摘であれど、ファンはそれを許さない。自分は樹木希林という女優を嫌いではない。が、容認できない言動は好き嫌いとは別だ。以前にもオフコース・ファン女性や将棋の羽生ファンと思われし方が、感情むき出しに突っかかってきた。まあ、女性の感情論への対応は心得ているつもりだ。
穏やかに、遠巻きに、差し障りのない返答が妥当である。以前は遠慮なく、ズバっとホンネで切り返したが今はやらない。今回の女性も感情の抑えが利いてないのは読めば分かるが、女性の感情をなだめるのも男の技量であろう。一緒になってギャーギャー遣り合う男は好ましからざる部類である。文中、高倉健と樹木希林とどちらが大人の対応かは一目だが、希林信者にそれは伝わらない。
ファンというのは宗教のようなもので、だから信者という。高倉ファンならずとも健さん対応を素敵と思う人もいれば、希林さん支持の人もいる。人間の考えはそれほどに幅があるのは長年社会に生きて実感すること。「自分は率直な人間」と書いたように、正しくないと信ずる批判に遠慮はしないが、あくまで当事者批判であり、当事者外の反論にはホンネを抑えた節度ある対応を心がけている。
『バカの壁』で知られる解剖学者の養老孟司は、彼に対する批判に一切口を開かないと決めているという。それが『バカの壁』の著述動機であるらしい。養老氏は議論が得意でないらしく、学生や一般人からやり込められる場面を幾度か見た。その際彼は、「バカには何をいってもしょうがない」というような言葉を直接的にでなく、回りくどく発して自らを慰めているようであった。
論客タイプの学者もいるが、彼は典型的なモグラタイプ研究者。著作に専念し、批判には対応しないと決め込んでいる。反論すれば遣り込められる無様な醜態を案じているのか、男らしいというより臆病人間である。それはそれでいい、彼は自分を周知している。そうした態度が、"他人を見下し自分の世界に没入する"などの批判を生じさせるが、どうであれ無視の態度を貫く養老氏。
「金持ち喧嘩せず」とは聞こえはいいが、金持ちの類にもいろいろタイプがある。同じ男からみて、やんちゃタイプは物怖じしないが、養老氏のような真面目タイプは臆病人間が多い。小学~中学の同級生などを思い起こせば、この手の分類に該当する者たちが次々浮かぶ。小学校時、どうにもならない悪ガキがいた。一度だけ大きな喧嘩をしたが、その後彼とは絶縁していた。
高校の入学式に遅れたことで二人は偶然に会い、同じクラスであることも分かった。「お前も遅刻か!」と意気投合し、入学式が終わってホームルーム中の教室の前のドアから堂々入ったところ、烈火の如く怒る担任のNから二人はビンタを食らった。その程度で怒り、その程度のことでビンタを食らわせる教師、そんな時代だった。おそらく彼もその教師とは3年間口を利かなかったろう。
企業名は伏せるが彼は現在、資本金250億、売上高4400億円余りの大企業の取締役会長である。入学式のビンタは生涯の思い出だが、現在の彼の存在があの時の延長だったふしは感じられる。もちろん彼の努力もあろうが、生徒会長も努めた彼は、優等生タイプの会長というより、権力・権威批判タイプだった。大学卒業後に現会社に入社し、今では出世頭のトップの元やんちゃ坊主である。
住む世界はまるで違うが、同級生というのは利害関係なきであるがゆえに続くもの。大会社の社長であれ、橋の下で生活する乞食であれ、誰がどんな境遇の現在であれ、同じ学び舎で同じ空気を吸った者同士こそが同級生。彼とはどこで会おうともあの時のビンタを共有するだろう。「憎まれっ子世にはばかる」とはいったもので、「いい人」は成功者にはなれない。
話が反れ気味だが養老氏の態度は波紋を呼んだ。自ら愛煙家を標榜し、『禁煙運動という危うい社会実験』と題し、「健康至上主義がはびこる一方で、日本では交通事故で毎年五千人が亡くなり、自殺で三万人が亡くなっている。いくら健康に気をつけていても明日クルマに轢かれて死んでしまうこともある。国民の命が大事というのなら、禁煙運動より先に自動車反対運動を」など、極端な持論を展開する。
また、「文芸春秋」07年10月号のタイトルは、「変な国・日本の禁煙原理主義」の中で養老氏が、「たばこの害や副流煙の危険は証明されていない」、「禁煙運動家はたばこを取り締まる権力欲に中毒している」などと発言したことに日本禁煙学会が激怒。「たばこが害だという根拠が無いの根拠を示せ」と、2007年9月13日に公開質問状を出したが、一切取り合わない態度を貫く。